コラム

これはスタジオではなく、エチオピアの路上で撮った「現実」

2017年11月17日(金)12時47分

「Moving Shadows」シリーズ(他の3点も) From Girma Berta @gboxcreative

<スタジオ撮影で使用されるバックドロップ(背景)のようだが、決してそうではない。エチオピアのビジュアルアーティスト、ギルマ・ベルタの狙いとは>

スマートフォンの画期的な進歩と普及は、今までにない新たな才能を開花させ始めている。このブログでもすでに幾人かそうした才能を紹介したが、今回取り上げるギルマ・ベルタもその1人だ。1990年生まれのエチオピア人で、ホームタウンである首都アディスアベバのストリートをモチーフに、多くの作品を生み出している。

純粋には写真家ではない。アカデミックなバックグラウンドはIT(Information Technology)だ。クリエイティブなグラッフィク事務所をアディスアベバに構えており、本人は、ヴィジュアルアーティストと呼ばれるのがいいと言う。

写真については、2010年にiPhone を手にしたことで本格的に興味を持ち始めたという。インスタグラムで多くの作品に触発され、さまざまな映画を通してドラマチックな映像感覚も吸収し、独自に学んだ写真術とグラフィックのテクニックとを混ぜ合わせながら作品を発表している。

ごく最近まで、彼の作品は全てiPhone だけを使って撮影し、つくり上げたものだった。代表作は「Moving Shadows」シリーズである。著名なフォトフェスティバルや媒体で紹介され、国際的な賞も受賞。ベルタを世界的に有名にした作品だ。

ストリートフォトグラフィーにファインアートを融合させたベルタの作品の大きな特徴は"シンプルさ"である。とりわけ「Moving Shadows」シリーズはそうだ。人物を観察したポートレートだが、バックグラウンドの壁をポストプロダクションのテクニックを使って、スタジオ撮影で使用されるバッグドロップ(背景)のように見せかけている。それがシュールな感覚を付加して、見る者の注意を引く。

プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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