コラム

トランプを自滅させるかもしれない、テレビ討論会での3つの失言

2020年10月01日(木)16時00分

非難の応酬となった討論会を米メディアは「過去最低」と評価 Brian Snyder-REUTERS

<前回選挙とは違い、必死にヤジを繰り返す今回のトランプには焦りと弱さが感じられた>

今年の米大統領選における第1回テレビ討論は、9月29日(火)夜にオハイオ州クリーブランドのケース・ウェスタン・リザーブ大学で行われました。

それにしても、こんなテレビ討論は前代未聞です。とにかく、トランプ大統領は相手のバイデン元副大統領が発言している途中で、それを遮ったり、罵倒をかぶせて発言を妨害したり、そうした態度に終始したのでした。バイデン候補も同じことをやったという見方もありますが、あれは、打ち返さないとモメンタム(勢い)を奪われるので、対抗上必要最小限の範囲だったと考えられます。

司会のクリス・ウォレス(FOXニュース)が指摘していたように、大統領の姿勢は異常でした。ウォレスは「選対同士の協定で2分間のそれぞれの発言は妨害しない約束だ」として、大統領に何度も注意をしていましたが、最後まで大統領の態度は改まりませんでした。

反対にバイデン候補の方は、心配されていた失言や事実誤認、文脈の混同や沈黙などといった決定的なミスはなく、反論にしても攻撃にしても、かなり有効打を打っていたと思います。また、時折カメラ目線で有権者にストレートに呼び掛けていたのも成功していました。

中道の立ち位置を明確にしたバイデン

まともな政策論の少ない討論でしたが、それでもバイデン候補は「(民主党左派の主張する極端な)グリーン・ニューディールは支持しない」こと、そして「(一部のデモ隊が主張する)警察への予算カットは支持しない」ことを明言し、中道派というポジションを宣言できていた点は評価できます。

一方のトランプ大統領の側からは、3つの問題発言が飛び出していました。仮に現職落選ということになれば、この3つの失言が契機だった......となる、そんな可能性も感じられるものです。

1つ目は、オレゴン州やウィスコンシン州などで人種差別反対派のデモ隊に対抗して活動している「プラウド・ボーイズ」という白人至上主義の極右武装集団についてです。

大統領は彼らを批判するどころか、"Stand back and stand by."(「後方で備えて攻撃の構えを取れ」という意味)と述べて、デモ隊に対する暴力を挑発するかのような言い方をしていました。問題の極右グループ「プラウド・ボーイズ」は、この大統領の発言に対して、SNSには早速、「狂喜」とでも言えるような書き込みをしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアとの戦争、2カ月以内に重大局面 ウクライナ司

ビジネス

中国CPI、3月は0.3%上昇 3カ月連続プラスで

ワールド

イスラエル、米兵器使用で国際法違反の疑い 米政権が

ワールド

北朝鮮の金総書記、ロケット砲試射視察 今年から配備
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story