コラム

アメリカはコロナ感染の「第2波」に入ったのか?

2020年07月02日(木)16時00分

全国規模のロックダウンが人々のフラストレーションを蓄積させた?(写真はテキサス州のマスク反対デモ) Sergio Flores-REUTERS

<ニューヨークやニュージャージーの感染爆発が沈静化した後、6月に入ってから南部・中西部で感染爆発が起きたのはなぜか>

ここ数週間、アメリカでは依然として南部や中西部など「保守州」での新型コロナウイルスの感染爆発が止まりません。特に、テキサス、アリゾナ、フロリダは危機的な状況となっています。そんななかで、一時はトランプの叫ぶままに「経済活動再開」に前のめりになっていた共和党の知事たちも「経済活動再開の凍結」、さらには「経済活動の再停止」へと舵を切り始めました。

マスク論争に関しても、ペンス副大統領が着用を推奨したことを契機として、共和党の知事たちも「公共の場所での着用義務付け」へ動き始めました。そして、7月に入って遂にトランプ大統領自身も、マスク着用に関して前向きな発言に転じました。

4月から5月の段階でトランプ大統領は、感染拡大は「民主党の優勢な『ブルー・ステート』」の問題であり、「民主党知事の失政の結果」だというような批判をしていましたが、今は形勢が逆転したと言って良い状況です。このままですと、ウイルスによる感染の拡大トレンドが、大統領選の結果を左右するかもしれません。

今回の中西部や南部の感染爆発ですが、これを「第2波」と命名することには異論があります。ホワイトハウスの専門家チームなどは、例えば1918年の秋に始まった「スペイン風邪の第2波」と比較すると「ウイルスが強毒化した証拠がないこと」や、まだ「2度目の秋冬の流行期に再流行が起きた」わけではないことから、「第1波が拡大」しているのであって「第2波ではない」という見解を示しています。

非常事態宣言と各地方の実状とのズレ

それにしても、ニューヨーク州を中心とした東北部、あるいは太平洋岸においては3月から5月に深刻な感染爆発が起きて、それが鎮静化しているわけです。それにもかかわらず、6月から7月に他の地域で感染拡大が起きたのはなぜなのでしょうか?

さまざまな原因が考えられますが、1つ考えられるのがアメリカの場合、州をまたがる移動を完全に止めなかったことが影響している可能性です。中国から太平洋岸へ、ヨーロッパから東海岸へと国境を越えた感染が広がったなかで、アメリカはニューヨークから全国への人の流れを遮断しませんでした。緩やかな遮断はありましたが、徹底できず、結果的に感染が拡散したと考えることができます。

一方で、全国規模の非常事態宣言が各地方の状況とはズレていたという見方もあります。ニューヨークやニュージャージーの感染爆発に合わせて、全国規模のロックダウンが行われたのですが、実は南部や中西部では意味がなく、単に経済を疲弊させて、人々のフラストレーションを蓄積させるだけだった可能性があります。

そうしたロックダウンには反対運動が盛んになり、5月からは「なし崩し的に経済活動再開」がされたところに、ちょうど中西部や南部の流行の時期が重なって感染爆発になったということはあり得ます。

<参考記事:スウェーデンの悪夢はパンデミック以前から始まっていた

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story