コラム

動き始めた「ポスト安倍」に求められる3つの最低条件

2020年06月19日(金)16時00分

「ポスト安倍」の動きが報道されるようになっているが Rodrigo Reyes Maine-Pool-REUTERS

<新型コロナ対策ではより高いコミュニケーションと透明性、経済・外交ではより明確な新方針を示すこと>

河井克行衆議院議員と河井案里参議院議員の夫婦が逮捕されました。案里氏を強引に「2人区」に擁立し、また1億5000円という異例の選挙資金を出すという判断が政権の周囲から出ている疑惑から考えると、安倍政権へのダメージは避けられないでしょう。

これで「安倍一強」の状況に生まれた動揺が、さらに一段階進んだのは間違いないと思います。

ですが、メディアの論調を見ていますと、一部具体的な氏名がポツポツと上がっているものの、政策に関する論議は盛り上がっていません。ポスト安倍については、2020年代の日本の方向性に関わってくる大切な問題だと思います。仮に政変が近づいているとしても、政策に関する選択肢を伴う議論でなければ何の意味もないと思います。

まず喫緊の課題である新型コロナ対策に関しては、日本は欧米と比較して優等生といっていい評価があります。それにもかかわらず世論におけるコロナ危機をめぐる政権への信頼度は極めて低いという、奇妙な現象が起きています。これは、世論の深層に「経済危機への不安感」や「自粛の重苦しさへの疲労感」がうごめいているからです。

この問題ですが、仮に安倍首相とは対照的な中道左派的な政治家が出てきて、一時的に世論の信用を獲得したとします。そのうえで、新政権が自粛という重苦しく曖昧な政策ではなく、強制力を行使したら、世論は好感を持って受け止めるかというと、決してそうではないと思います。

経済支援の中心は供給側か消費者側か

また、安倍政権よりもさらに経済重視の政権になって、自粛も規制も取っ払って、スウェーデンやブラジルのような対応をする、そんな期待感も日本の場合はないと思います。

ということは、ポスト安倍の新型コロナ対策というのは、現状の延長が中心であって、大きな変更は期待されていないし、不可能と考えられます。とにかく現政権より少し「マシ」なコミュニケーションと透明性が期待されるというのが、まず基本的な期待感になるのではないでしょうか。

経済については、選択肢があります。コロナ不況への対策にもっと踏み込むのか、その場合の経済支援は供給側中心なのか、消費者側なのか、格差への再分配の性格をどの程度入れるのか、この点はハッキリさせてもらいたいと思います。同時に、産業構造改革をやって、コンピューターと英語によるビジネスを加速させるのか、それとも安倍政権のようにスローな改革なのか、あるいは改革に反対する守旧派としていくのか、これも重要な選択肢です。

<関連記事>
アメリカのミレニアル世代はなぜ60年代に回帰するのか?
ニューヨークと東京では「医療崩壊」の実態が全く違う

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story