コラム

ムラー報告書公表から1週間、米政治の混迷はむしろ深まっている

2019年04月25日(木)15時10分

だからこそ、大統領は全文公開後に怒ったわけですし、民主党の左派は「弾劾できないのはおかしい」と言い始めたのです。つまり、報告書の内容が玉虫色の灰色決着であっただけでなく、世論の受け止め方も玉虫色というか灰色ということになります。一週間を経過した中で、浮かび上がってきたのはそのような構図です。

こうした状況について、民主党左派のバーニー・サンダース議員(大統領候補)は、「弾劾を進めれば時間がかかる。そうなれば大統領選の議論も、ムラー報告書がどうとか、トランプの倫理がどうという話題に集約されてしまう。そうなれば、環境や医療保険や、あるいは性差別や移民差別など、必要な論争が全部、吹っ飛んでしまう」として、若手の「即時弾劾論」を戒めています。

この発言については、珍しくサンダース氏が原則論からマキャベリズムにシフトしたなどと話題になっているのは事実です。ですが、こうなると政策の左派と中道、即時弾劾論と戦略的な先送り論という2つの軸において、民主党はバラバラ。そう言われても仕方がありません。では、そのような「敵失」に乗じて大統領の勢いが浮上しているのかというと、必ずしもそうでもないところに、現在の米政治の不透明感があります。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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