コラム

米中間選挙直前の移民キャラバン、トランプへの追い風になる「逆効果」

2018年10月25日(木)16時50分

つまり、連日この「キャラバン」が報道されることで、トランプ派には追い風になっているのです。まず、キャラバンが出発した時点で、ペンス副大統領は、「(移民を送り出している)ホンジュラス、エルサルバドル、ニカラグアの3カ国の政府は、住民を国外に出さないよう強制措置を行え」という声明を出しています。

これを受けて、トランプ大統領は、この3カ国に「移民を送り出したら援助を停止する」と脅しています。また、南部に遊説した際には「民主党はこうした移民を歓迎している」などと批判する一方で、「(アメリカに到達しても)絶対に入国させない」として入国を阻止するために軍の出動を行うという示唆もしています。

とにかく、ここへ来て大統領は遊説のたびに、この「キャラバン阻止」という話題ばかりを取り上げており、それが支持者に受けるという状況になっています。ただ、この問題を「取り上げ過ぎる」とヒスパニック系の有権者に悪印象を与える危険があります。これを避けるために、サンダース報道官などは「キャラバンにはアラブのテロリストが混じっている」などと、証拠もないことを述べて大統領を擁護しています。

そんな中で、トランプ系の共和党候補の中からは、「大統領は国境地帯に戒厳令を布告すべきだ」という主張も出てきています。またネットでは、この「キャラバン」に資金を提供しているとして、投資家のジョージ・ソロス氏を批判する書き込みがあり、ソロス氏が脅迫がされているという報道もありました。

一方の民主党ですが、2つに分かれています。サンダース議員などの流れをくむ左派候補は、このキャラバンに同情的です。そして、従来から主張している不法移民の取り締まり組織「ICE(移民・関税執行局)」の解散を訴えています。一方で、中道派は保守的な有権者の離反を恐れてこの移民問題にはダンマリという感じです。それでも地元密着型の下院の小選挙区への影響は少ないでしょうが、州単位の選挙となる上院では、共和党側に有利な情勢を後押ししている状況です。

キャラバンは、このままのスピードで進むとアメリカ国境に11月下旬に到着するペースで進んでいます。ということは、11月6日の投票日までは、連日この「キャラバン隊」の映像がニュースで報じられることになり、それは現時点ではトランプ側の政治的モメンタム作りに一役買っているという、何とも言えない皮肉な「逆効果」を生んでいます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ガザ休戦案「前向きに検討」、ハマス指導者 仲介国と

ビジネス

米加金利の乖離に限界あり=カナダ中銀総裁

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story