コラム

米中間選挙の直前情勢、上院は共和党が優勢か

2018年10月23日(火)19時00分

一方で、テキサス州では、IT起業家のビト・オルーケ候補(民主)が、大統領候補にもなった現職のテッド・クルーズ議員(共和)を一旦は追い詰めたのですが、クルーズ候補は2016年の予備選における確執を越えて「なりふり構わぬトランプ支持作戦」をスタート。攻勢に転じています。

10月22日(月)には大統領自身がテキサス入り(ヒューストン)して「嘘つきテッドなどと言った過去は水に流す」として「今は、ビューティフル・テッドだ」などとクルーズ候補支持を訴える集会を開いていました。

全体的に上院で共和党が勢いを強めているのには、構造的な理由があります。上院議員選挙は各州が1選挙区ですから、基本的に民主・共和両党の支持者がいる中で、中道票の取合いと、消極支持層の棄権防止、相手の消極支持層の棄権誘導といった作戦が有効で、そこで「トランプ流の選挙目当て政策」が効果を発揮しているのです。

具体的には、最高裁に保守派のカバナー判事を送り込むことで宗教保守派を喜ばせる、保護貿易を徹底し国内の製造業を重視している姿勢を見せる、ロシアとの中距離核弾頭削減条約を破棄するなどロシアとの癒着を否定する効果を狙い、中国との確執を演出する、など様々なことをやっていますが、どれも中間選挙の投票日を計算してのことです。

例えば、10月22日の週の時点では、中米ホンジュラスから約5000人の難民が、ギャング集団の迫害から逃れるために、グアテマラ、メキシコ経由でアメリカを目指しています。これに対して、トランプ大統領は「国境に軍を配備しても入国を阻止する」などと発言しています。これも国境州を中心に、保守派にはアピールする姿勢でしょう。

では、民主党は押され気味かというと、決してそうではなく、トランプ政治のほとんどすべて否定したいという情熱で、選挙戦を戦っています。特に、カバナー判事の最高裁入りという事態を許したことで、強い危機感を抱えています。ただ、その思いが強ければ強いほど、主張は左にシフトしてしまい、中道票を遠ざけているのも事実です。テキサスで一度は優勢と言われたオルーケ候補などはそのいい例でしょう。

投票日まで残りわずかとなりましたが、「政局の一寸先は闇」という言葉はアメリカにも当てはまります。何かをきっかけに投票日までに大きく情勢が変わる可能性はまだ十分に残っています。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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