コラム

トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権

2017年01月12日(木)16時50分

 この問題に関しては、トランプ氏は自身で語るのではなく、顧問弁護士として長年の付き合いがあるという、「モルガン・ルイス・バッキウス法律事務所」のシェリ・ディロン弁護士を登壇させて、彼女の口から「決定した対策」が紹介されました。

 内容はまったく中途半端なものでした。トランプ氏は自身のビジネス「トランプ・オーガニゼーション」を第三者に売却するのではなく、息子2人、つまりドン・ジュニア・トランプ氏とエリック・トランプ氏に託すというのです。また、自身の持ち株については、信託に入れるものの、利害関係のない第三者を管理人にする「ブラインド・トラスト」にはしないとしています。

 その他の「対策」としては、「トランプ・オーガニゼーション」内部に倫理担当者を設置するとか、トランプ氏が大統領職に在職中、同社は「外国との間には新しいビジネス上の契約は結ばない」し、「国外における企業活動が生んだ利益は国庫に寄付する」としています。一方で、国内では相変わらず新しい契約はどんどん進めてシッカリ稼ぐというのです。

 ディロン弁護士とトランプ氏は、政府の公務員には利益相反になるビジネスに関して「すべて売却」する義務があるという法律は、「大統領と副大統領には適用されない」ので、自分たちは「本来は必要のない措置」をしていると、再三強調していました。

【参考記事】オバマ米大統領の退任演説は「異例」だった

 ですが、これではまったく不十分です。法的な形式要件は満たしているかもしれませんが、大統領職との整合性は取れません。この日の会見の席では、メディア各社からの鋭い「ツッコミ」はありませんが、1月20日に就任した後は、民主党やリベラル系の新聞などは「トランプファミリーの公私混同」について、とにかく様々な材料を収集し続けるに違いありません。

 ディロン弁護士は、トランプ氏と一族が「全株を売却すれば、負債を抱えることになる」とか、「対策として会社を一旦上場させて持ち株を処分することも考えたが、テクニカルに不可能ということが判明した」などと、12月に私が推測したように、「売るに売れない」事情があると説明していましたが、やはりこの半端な措置は問題だと思います。

 仮に経済が行き詰まったり支持率が低下した際には、それこそ70年代の日本の「田中金脈問題」のように、「トランプの公私混同疑惑」が一斉に噴出する――そんな可能性を残してしまったからです。

 ロシアのハッキング問題における諜報機関や報道機関との確執、北米自由貿易協定(NAFTA)の存在を無視して「高関税をかける」という私的な圧力で進めた「産業空洞化対策」、そしてまったく不完全な「利害相反問題」への対処と、この11日の会見で浮き彫りになったのは、新政権の船出は「不安だらけ」という現実にほかなりません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 6

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 7

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 8

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 9

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 10

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story