コラム

英国のEU離脱は、日本の誰が考えているよりも重い

2016年06月25日(土)09時40分

Reinhard Krause-REUTERS

 英国のEU離脱は、日本の誰が考えているよりも重い──なぜか。

 それは、21世紀の世界の暗雲を象徴しているからである。

 まず、なぜこのような事件が起きてしまったのか。

 キャメロン首相のせいである。キャメロン首相が国民投票などという寝た子を起こすようなことを約束しなければ、離脱などということはおき得ないからである。キャメロンの辞任表明の演説はすばらしくかっこよいものであったが、英国に終わりをもたらしておきながら、最後までかっこつけるとはなんてやつだ、ということにもなる。彼の責任は重い。

【参考記事】英国EU離脱は、英国の終わり、欧州の衰退、世界の停滞をもたらす

 なぜ、彼はそんなくだらないミスを犯したのか。国民投票をするなどと約束してしまったのか。

 それは、大衆を馬鹿にしていたからである。

 とりあえず、独立派の勢いをとめないといけない。総選挙に勝たないといけない。独立派を抑えるには、こっちも国民投票するよ、と約束してやれば、独立派を支持する理由がなくなる。そして、実際国民投票になれば、離脱ということにはならないだろう。あほな大衆は、ギリシャ問題もあって感情的になっているが、どう考えても損だから、そんな馬鹿なことはしない。あほでもそのうちわかるだろう。だから、その場しのぎに国民投票を約束してしまったのである。

 今回の離脱決定は、エリートの油断であり、支配者層の本質的な大衆軽視の結果であり、自業自得なのだ。そして、これは欧州の貴族社会、特権階級の大衆支配の終焉の始まりを意味する。

【参考記事】EU離脱派勝利が示す国民投票の怖さとキャメロンの罪

 合理的に考えれば、離脱はあり得ない。経済合理性からは残留に決まっている。だから、一時的な感情で大衆は動いているが、愚かすぎて話にならず、そのうちに気づくだろう、まあいつも大衆は愚かでどうしようもないから、ゆっくり教えてやればよい、まあ自分たちが結局決めるのだから、なだめれば何とかなる、そういう発想であったと想像する。

合理性の終わり

 どこまで傲慢であったかはともかく、いずれにせよ、エリートが自分たちの都合で、あるいは自分たちが正しいと思うことが世の中で実現し続ける「合理的な」時代は終わったのだ。それは古代からの歴史を変える事件なのだ。

 大衆にとって見れば、感情的ではなく、部分合理性なのだ。エリートたちは国全体を考えている、と言う。あるいは、まずパイを大きくしないと始まらない、その後で分け前は考えよう、と言う。だが、大きくなった部分は自分たちで独占するのだから、どうせ俺たちには回ってこない、分け前だってどうせよこさない、せいぜい乞食に恵んでやる程度のことで、それも腹が立つ。だから、自分たちの感情で決めるんだ、エリートのことはすべて反対しよう。現状は不満だから、現状から変わるものであれば何でも良い、今が最悪なのだから、失うものなんてない。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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