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コラム
ニューズウィーク日本版編集部 From the Newsroom
遅れてきたバンド、遅れてきたギタリスト
ザ・ポリスのギタリスト、アンディ・サマーズは遅れてきたギタリストだ。生まれは1942年、45年生まれのエリック・クラプトンや43年生まれのキース・リチャーズよりも実は年上なのに、ポリスとして売れたのはアルバム『アウトランドス・ダムール』が出た78年、36歳の年だった。
当時スティングは27歳、ドラムのスチュアート・コープランド25歳。平均年齢29・3歳は決して若くない。ところが当時隆盛を極めたパンク・ムーブメントを利用することで売れようとしたこの異色のバンドは、その後レゲエの要素を取り入れ大ブレイク。最大のヒット曲『見つめていたい』は、BBCによれば1曲で1350万ポンド(約22億円)を稼ぎ出し、「最も稼いだ曲」ランキングの8位に入るほど売れた(ちなみにビートルズの『イエスタデイ』が1950万ポンド〔約32億円〕で4位)。
60年代から70年代にかけて世界を席巻したロックムーブメントに乗り遅れたが故に、80年代前半を象徴する存在になったバンド、ポリスの栄光の歴史と内幕を描いたドキュメンタリー映画『ポリス/サヴァイヴィング・ザ・ポリス』が11月23日から、日本で公開されている。
ベースになっているのは、サマーズの自伝『ポリス全調書』(スペースシャワーネットワーク)。ほかのメンバーよりひと回り年長なことと、恐らくは持って生まれた性格ゆえ、なのだろう。サマーズはギタリストという人種では珍しい「調整型」「気使い型」の人だ。どこか冷めた視点で、バンドに突然当たったスポットライトのきらめきとやがて消えゆくはかない熱狂を淡々とつづる自伝のよさは、この『サヴァイヴィング・ザ・ポリス』でもうまく再現されている。
スティングの傑出した才能ゆえ、バンドは84年のグラミー賞を総なめにしたアルバム『シンクロニシティー』を最後に空中分解するのだが、このアルバムの段階で、既に3人がそれぞれスタジオの別の部屋で録音するほど不仲だったこともサマーズは淡々と振り返っている。ご多分にもれず、乱痴気騒ぎとドラッグでサマーズも身を持ち崩し、彼を深く理解する妻から三行半を突きつけられる。ただ、彼はその後自分を取り戻して妻と復縁し、家族を取り戻す。突き抜けたいのに、どこか突き抜けられない。その音楽性を象徴するサマーズの人生のエピソードも、映画では語られている。
MTVが全盛期を迎えた80年代初めは、ベトナム戦争の終結と共に政治の季節が終わり、反逆の象徴だったロック音楽が一気に商業化を迎えた時代だった。MTVはその牽引役で、ポリスもほかならぬMTVによって世界に広く知られるようになったバンドの1つだ。ただ一方でどこか昔の香りを残したこの3人編成のグループは、ロックの1つの時代の終わりに咲いた「あだ花」だったのかもしれない。
サマーズと日本ファンとの思いがけない交流の様子や、人気だった音楽番組「ベストヒットUSA」に出演した際の(ちょっと笑える)シーンも映画では見ることができる。個人的に驚きだったのは、カメラマンとしての彼のもう1つの顔だ。音楽で煮詰まった気分を切り替えるために始めたらしいが、その作品は素人のレベルをはるかに超えている。サマーズの公式サイトに作品の一部があるので、興味のある人はぜひ一度見てほしい。彼特有の「どこか冷めた視点」が、ある意味その音楽以上に表現されている。
――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)
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