コラム

非英語国民は損か得か

2010年06月24日(木)22時35分

 母国語のほかに外国語を学ばないといけない国の人間はなんだか損だなあと思うことがある。仕事でも観光でも、アメリカ人やイギリス人は母国語のままで世界中で活動できることが多い。一方、日本人など非英語国民は英語を知らないと不利になることが多い。

 そのハンデを埋めるために、日本人が授業や宿題や受験や英語検定や留学にかける時間と費用は、天文学的な数字になる(それは大げさ)。こちらが生涯で英語学習に費やす何万時間と何百万円(?)を、アメリカ人はほかのことに自由に使えるのかと思うと、ちょっと悔しい。

 だが、非英語国民にも得なことはある。英語のような異質な言語を学べば、異質の文化を知ることにつながり、視野が広がり、人間として成長できる。英語圏の人にはそのチャンスは少ない。ああ、かわいそうなアメリカ人、イギリス人、オーストラリア人その他もろもろの人々よ。
 
 そのかわいそうな英語圏では、外国語を学ぶ必要がほとんどないどころか、外国語から翻訳される本も少ないらしい。いま発売中のニューズウィーク日本版6月30日号「翻訳なき文化は世界で孤立する」によると、アメリカとイギリスとで年間に刊行される本のうち、翻訳本はわずか2~3%で、中南米と西ヨーロッパの約35%をはるかに下回る。

■英語圏の「翻訳アレルギー」は迷惑

 こうした英語圏の「翻訳アレルギー」でまず損をするのは、外国の本に触れるチャンスが少ない国民だろう。やはりアメリカ人やイギリス人はかわいそうだな。

 だが記事によると、その影響は英語圏にとどまらない。ある言語の本が英語に翻訳されないと、ほかの言語にも翻訳されにくくなる。英語が他言語同士の橋渡しをすることが多いからだ。例えばスペイン語の文学を中国語に翻訳する場合、いったん英語に翻訳する必要があるという。

 そのうえ英語圏の翻訳アレルギーは、異なる文化や外国人の思考を遠ざけることで、国境を越えた相互理解を妨げてもいると記事は指摘する。だとすれば、英語国民は外国語を学ばないばかりか翻訳本すら読まないことで、世界平和の足を引っ張っているのかもしれない。

 日本では必要に迫られていることもあって英語学習熱が高く、かなり昔から翻訳本も多い。非英語国として不利な点が多いかもしれないが、人類の相互理解、ひいては世界の平和に貢献していると言えなくもない。英語を勉強する日本人は、もっと誇りに思っていい。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事を読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英賃金上昇率、12─2月は前年比6.0% 鈍化続く

ビジネス

出光、富士石油株を追加取得 持分法適用会社に

ワールド

アングル:「すべてを失った」避難民850万人、スー

ビジネス

日経平均は大幅続落、米金利上昇や中東情勢警戒 「過
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無能の専門家」の面々

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 5

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 6

    キャサリン妃は最高のお手本...すでに「完璧なカーテ…

  • 7

    韓国の春に思うこと、セウォル号事故から10年

  • 8

    中国もトルコもUAEも......米経済制裁の効果で世界が…

  • 9

    中国の「過剰生産」よりも「貯蓄志向」のほうが問題.…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入、強烈な爆発で「木端微塵」に...ウクライナが映像公開

  • 4

    NewJeans、ILLIT、LE SSERAFIM...... K-POPガールズグ…

  • 5

    ドイツ空軍ユーロファイター、緊迫のバルト海でロシ…

  • 6

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 7

    ロシアの隣りの強権国家までがロシア離れ、「ウクラ…

  • 8

    金価格、今年2倍超に高騰か──スイスの著名ストラテジ…

  • 9

    ドネツク州でロシアが過去最大の「戦車攻撃」を実施…

  • 10

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story