コラム

ラブレターを開封する郵便局

2010年04月04日(日)22時23分

 グーグルのGメールは利便性と引き換えにプライバシーを売り渡すようなものなどと言われているが、フィンランドの国有郵便会社イテラが来週試験的に始める「郵便開封サービス」は、もっと生々しいかもしれない。配達前の手紙を郵便局員が開封し、中身をスキャンして、そのPDFをウェブ上のメールボックスに配信するというのだ。

 Gメールのように自動処理ではなく、生身の人間が他人の手紙をはさみか何かで物理的に開封するというところがミソ。恋人からのラブレターもクレジットカードの請求書も、郵便局員に開けられてしまう。

 恐らく前代未聞だろう。4月1日にこれを報じたテクノロジー系のブログサイト「テッククランチ・ヨーロッパ」には「エイプリルフールじゃないの?」というコメントが寄せられた。だがAFP通信やBBCも報じていたので事実に違いない。

 利用者には実物の郵便も配達されるが、配達頻度は週2~3回に減る。郵便会社は配達コストを削減できる。利用者にとってのメリットは配達前に手紙の内容を読めることだ。デジタル配信されるとメールで通知される。旅行先でも恋人の手紙を読める。

 最初は首都ヘルシンキ近くの村でサービスを始める。AFPによると、サービスを希望した個人は126世帯、企業は20社。登録ユーザーだけにサービスが適用されるが、心配されるのがプライバシーの問題。ネット上では熱い議論が交わされた。郵便局員が私信をのぞき見るところを想像して、ソ連時代の秘密警察KGBに例える人もいたという。
 
 郵便会社は、新サービスのスタッフには守秘義務があるし、手紙の内容を読むことはないと反論。配達員が開封・スキャンに関与することもないという。

 そうかもしれない。だが、もし日本で同じようなサービスが登場しても、私は使いたくない。というか、日本では当面やってほしくない。日本郵政の社員が信用できないからではない。鳩山内閣の郵政迷走を見ていると、郵便開封サービスを悪用する政治家がいないとも限らないからだ。

──編集部・山際博士


このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米5月住宅建設業者指数45に低下、1月以来の低水準

ビジネス

米企業在庫、3月は0.1%減 市場予想に一致

ワールド

シンガポール、20年ぶりに新首相就任 

ワールド

米、ウクライナに20億ドルの追加軍事支援 防衛事業
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story