コラム

マグロ値上がりの危機?──アフリカ新興海賊の脅威

2021年03月12日(金)15時50分
寿司 マグロ

海賊の横行が長期化すれば、他地域でとれるマグロの価格にもしわ寄せが(写真はイメージです) studiocasper-iStock


・日本は大西洋一帯から、国内で消費する本マグロの約1/4を仕入れている

・その大西洋の一角にあたるギニア湾では海賊が増えており、とりわけ全世界の海賊による誘拐事件の9割がこの一帯で発生している

・このリスクの高まりは、日本が仕入れるマグロ価格にも影響を及ぼしかねない

さまざまなサイトが行っている寿司ネタ人気ランキングで、マグロはほぼ常に上位3位までに入る。しかし、そのマグロには値上がりのリスクが忍び寄っている。そこには気候変動や漁獲量の問題だけでなく海賊の横行がある。

身代金で解放された中国漁船

ナイジェリア軍は3月6日、1カ月前に海賊に誘拐されていた中国漁船の乗組員が解放されたと発表した。

中国人6人を含む14人の乗組員が30万ドルの身代金によって解放されたという以外、誰がそれを支払ったかなどの詳細は明らかになっていない。

Mutsuji210312_Tuna1.jpg

この事件は今や珍しいものではない。海賊というとアフリカ東部のソマリア沖が有名だが、最近ではむしろナイジェリアを含むアフリカ西部のギニア湾沿岸で、その活動が目立つ。

Mutsuji210312_Tuna2.jpg

Mutsuji210312_Tuna3.jpg

特に多いのが誘拐だ。国際海事局(IMB)の最新報告書によると、2020年に世界全体で発生した海賊による誘拐事件135件のうち130件までがギニア湾でのものだった。昨年のこの地域での誘拐は一昨年と比べて約40%増加しており、そのほとんどが身代金目当てだった。

「軍事介入が必要なレベル」

ギニア湾周辺での海賊の横行は輸送コストを高めるが、とりわけ輸入原油の約40%がこの海域を通過するヨーロッパにとっては深刻な脅威になっている。

世界最大のコンテナ事業者の一つA.P.モラー・マースク社の幹部は英フィナンシャル・タイムズの取材に「(この海域のリスクは)軍事力の展開が必要なレベル」と力説している。

同じアフリカでも、東海岸のソマリア周辺では米国の主導のもと各国の海軍が合同で海賊対策パトロールを行なっており、海上自衛隊もこれに参加している。

しかし、ギニア湾周辺では西アフリカ諸国の海軍や沿岸警備隊による取り締まりが行われ、これにフランス軍やイタリア軍が協力してきたものの、コロナの影響で財政負担が膨らみ、各国が海外での軍事活動を控えるなかで協力は先細っている。

2年半で中国人34人が標的に

同様に警戒を強めているのが中国だ。「一帯一路」構想にアフリカ大陸も組み込んだ中国の船舶は、この地域と頻繁に往来している。

タンカーだけでなく、近年では中国漁船の活動も目立つ。魚介類の消費量の増加にともない、中国漁船は世界各地で操業しており、なかには生態系や地域の漁業に悪影響を及ぼすレベルの違法操業も報告されているが、いずれにせよ中国漁船の進出が目立つ点ではアフリカも例外ではない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

原油先物は続伸、イランがイスラエル攻撃準備との報道

ビジネス

インテル、第4四半期売上高見通しが予想上回る 株価

ビジネス

アップル、見通しさえず株下落 第4四半期は予想上回

ワールド

米裁判所、マスク氏訴訟の手続き保留を決定 大統領選
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:米大統領選と日本経済
特集:米大統領選と日本経済
2024年11月 5日/2024年11月12日号(10/29発売)

トランプ vs ハリスの結果次第で日本の金利・為替・景気はここまで変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後はさらなる「倒産増加」が予想される
  • 2
    「まるで睾丸」ケイト・ベッキンセールのコルセットドレスにネット震撼...「破裂しそう」と話題に
  • 3
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符を打つ「本当の色」とは
  • 4
    脱北者約200人がウクライナ義勇軍に参加を希望 全員…
  • 5
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 6
    北朝鮮軍とロシア軍「悪夢のコラボ」の本当の目的は…
  • 7
    天文学者が肉眼で見たオーロラは失望の連続、カメラ…
  • 8
    中国が仕掛ける「沖縄と台湾をめぐる認知戦」流布さ…
  • 9
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 10
    自爆型ドローン「スイッチブレード」がロシアの防空…
  • 1
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 2
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴出! 屈辱動画がウクライナで拡散中
  • 3
    キャンピングカーに住んで半年「月40万円の節約に」全長10メートルの生活の魅力を語る
  • 4
    幻のドレス再び? 「青と黒」「白と金」論争に終止符…
  • 5
    2027年で製造「禁止」に...蛍光灯がなくなったら一体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語ではないものはどれ?…
  • 7
    世界がいよいよ「中国を見捨てる」?...デフレ習近平…
  • 8
    日本で「粉飾倒産」する企業が増えている理由...今後…
  • 9
    「決して真似しないで」...マッターホルン山頂「細す…
  • 10
    【衝撃映像】イスラエル軍のミサイルが着弾する瞬間…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 8
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 9
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 10
    コストコの人気ケーキに驚きの発見...中に入っていた…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story