コラム

スペイン政権交代でカタルーニャ独立運動に新たな展開?

2018年06月12日(火)17時17分

マジョルカ島出身のラップ歌手バルトニックは、YouTubeにアップした歌詞がテロ賞賛、テロ犠牲者恥辱、スペイン国王侮辱の罪にあたるとして3年半の禁固刑を言い渡された。EUの本部があるベルギーの首都ブリュッセルに亡命し、今週現地の裁判所に出頭する予定だ。政府を批判するコメディアンたちのツイッターにも、当局から度々圧力がかかる。

イギリスの「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット」による「民主主義指数」2017年では、スペインは前年からランクダウンし、先進国が顔を並べる「完全な民主主義」グループの最下位になった。

今回の汚職事件で有罪判決が下された4日後には、最近のスペインに対するマイナスイメージを払拭しようとしたのか、外務省が驚きの「賞」の創設を発表した。スペインのイメージアップに最も貢献した記事を書いた在スペイン海外ジャーナリストに1万2000ユーロ(約150万円)の賞金を与える「ビアナ宮殿ジャーナリズム賞」だ。

ラホイが述べた「良くなったスペイン」は、ジャーナリストを金で買うというのだ。対象となる記者たちは、この「忖度ジャーナリスト賞」に対し、ツイッターで「賞をもらった日が編集長から解雇される日になるだろう」などとジョークで一蹴している。

社会労働党は闘牛士が置き去りにした剣を...

一方、約7年ぶりに政権を奪回した社会労働党は、トラが率いるカタルーニャ新州政府の閣僚名簿を正式に承認し、6月2日には8カ月ぶりにカタルーニャに自治権が戻った。とはいえ、トラは自治権回復だけではなく、カタルーニャ「共和国」建設を明確に表明している。

カタルーニャ独立派政党は、国民党を政権から引きずり下ろすために社会労働党に手を貸したが、それは単に「敵の敵」だったから。カタルーニャ新州政府は、社会労働党が自治剥奪に賛成した過去は忘れない。

返り討ちにあった闘牛士は、牛を仕留めることなく闘牛場を後にした。社会労働党は闘牛士が置き去りにした剣を拾い上げ、一旦鞘に納めた。

彼らはカタルーニャに歩み寄るのだろうか。壊れた信頼関係を修復できるだろうか。それとも再び剣を抜くのだろうか。少数与党のサンチェスが政権運営に行き詰まり、早々に退場してカオスが生まれるのだろうか。

いずれにせよ、カタルーニャ独立運動が新たな局面を迎えようとしている。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story