コラム

出演料10億円の美女ファン・ビンビンのゴシップが民主化の兆し?

2018年06月13日(水)18時09分

中国映画界きってのスター女優ファン・ビンビンだが、脱税の疑いが浮上した(昨年のカンヌ映画祭で) Stephane Mahe-REUTERS

<著名司会者が勇気を持って告発した、中国映画業界の脱税ゴシップ。その経緯と、社会的インパクトを説明しよう>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。今回は中国映画業界の脱税ゴシップと中国民主主義の可能性についてお伝えしたい。

今、中国で最も注目を集めているのが崔永元(ツォイ・ヨンユアン)のリークだ。

崔永元は中国中央電視台(CCTV)の著名司会者。2013年に退職して、現在は中国伝媒大学で教壇に立っている。その彼が激怒する事件が起きた。

発端は随分と昔の話になる。2003年にコメディ映画『手機(携帯電話)』が公開された。ある司会者が携帯電話を家に置き忘れたことから不倫がばれて、ドタバタ劇が始まっていくという物語だ。この司会者のモデルが崔だった。担当していた番組の降板も映画同様に不倫だったのではないかとの噂が広がり、崔は相当頭に来ていた。

そして、この2018年になって続編『手機2』が制作されることが発表された。崔は堪忍袋の緒が切れたようで、監督の馮小剛、脚本の劉震雲を激しく批判するばかりか、ついに映画界の「潜規則」(暗黙のルール)の暴露を始めた。5月末のことだ。

問題となったのが「陰陽合同」(表と裏の契約)。中国当局は高騰する映画スターの報酬を問題視し、2017年9月に俳優に支払う出演料は制作費の40%以内にしなければならないとの規定を発表したが、この規定は有名無実化していると噂されてきた。

崔は『手機』『手機2』の主演女優、ファン・ビンビンの契約書を入手し、SNSで公開した。表向きの契約書では出演料は1000万元(約1億7000万円)とされているが、実際にはもう1つ、裏の契約書があり、5000万元(約8億5000万円)の報酬が明記されている。合計で6000万元(なんと約10億2000万円!)が本当の出演料だという。

ファン・ビンビンといえば、『アイアンマン3』や『X-MEN:フューチャー&パスト』などのハリウッド映画にも出演した中国映画界きってのスター女優だ。当然、中国では大騒ぎになっている。

こうした「陰陽合同」は映画制作費に関する政府規制に違反しているのみならず、脱税の疑いもある。沸騰する中国世論を受け、6月3日、中国国家税務総局は映画業界の陰陽合同と脱税問題を調査する方針を発表。波紋が広がっている。

2004年に始まった崔永元との不思議な縁

実は、私と崔には不思議な縁がある。著書『歌舞伎町案内人』(角川書店、2002年)のヒットで、私は中国でも知られる存在となった。2004年に私は「北京青年週刊」誌で大きく取り上げられたのだが、同じ号に崔と『手機』の記事が掲載されていたのだ。その雑誌を見て、崔は私のことを知り、気に止めるようになったという。

lee180613-sub.jpg

同じ号で崔と私を取り上げた「北京青年週刊」誌。左が表紙、真ん中が崔の記事、右が私の記事(筆者提供)

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story