コラム

6歳の中国人の日本への難民申請を手伝ったら、炎上した

2018年08月20日(月)18時40分

東京入国管理局の「難民調査部門」から届いた葉書の表と裏(写真提供:筆者)

<日本は政治亡命をほとんど認めないのが通説だが、このたび中国で迫害されている知人の子供と義母の難民申請を手伝った。無事に受理されたのだが、その過程で中国人の暗部も見えてしまった>

こんにちは、新宿案内人の李小牧です。

日本に移住して30年、初めてのアルバイトから初めてのレストラン経営、初めての国籍取得、初めての選挙などさまざまな「初体験」を経てきたが、先日思ってもみない「初体験」があった。ある日のこと、私が電話を取ると、向こうはいきなりこう切り出してきた。

「李さん、ネットで炎上されてますよね? よろしければ、我々のほうで対策いたしますが。当方は**社と申しまして、風評被害対策で豊富な経験を持っております......」

――といった内容だ。

私、李小牧は言論人として活動するなかで、いわゆるネット炎上を何度も体験してきたが、対策会社から売り込みがあったのは初めてだ。ネット炎上を見つけてはめざとく営業をかけてくる会社もあるわけだ。商魂たくましいと感心させられた。

ネット炎上でパニックになっていれば、高額の料金がかかっても頼んでしまう人が多いのだろう。もっとも、ネット炎上には慣れっこの私には不必要なサービス。正々堂々と真実を明らかにすれば、批判の声もやがて勢いを失うのはよく分かっている。売り込みは丁重にお断りした。

日本は政治亡命を受け入れない、だが申請する権利はある

なぜ今回、私はネット炎上したのか。発端は6歳の子供だ。

6月末、路徳から電話があった。路は米国に亡命している中国人。中国共産党の闇を告発するユーチューブ番組「路徳訪談」の司会者として知られる。私も番組準レギュラーの1人だ。路は「私の友人2人が日本を訪問するので、会ってほしい」と言った。

そして7月2日、その「友人」2人がまもなく日本に到着するタイミングになって、路は再び私に電話をかけてきた。「実は友人というのは、私の子供と付き添いの義母の2人だ。よろしく頼む」

路徳には3人の子供がいる。ほとんどは米国で暮らしているが、年長の6歳の子供だけは中国に残っていた。「売国奴の子」と罵られ、辛い日々を送っているという。将来的には米国で父と一緒に暮らす計画だったが、なかなか滞在許可が下りない。ずっと地元にいるのも辛いので、海外旅行に出かけたのだという。

子供は地元政府からさまざまな嫌がらせを受けているが、幸いにも戸籍は別の地方にあったためパスポートは無事発給された。最近では「IT先進国・中国」とのニュースをよく目にするが、「嫌がらせ対象リスト」はネットで共有されていないようだ(笑)。

路徳の子供と義母は、まずは韓国に行き、そして日本にやって来た。15日間の観光ビザでの入国だ。期間が過ぎれば中国に戻り、子供は再び「売国奴の子」として暮らさなければならない。

そんな状況ならば政治亡命を申請してはどうか。私がそう勧めると、路徳は「そんな方法があるのか!?」と驚いていた。無理もない。日本は難民申請のハードルがきわめて高い国として知られる。中国人の政治亡命が認められたのは天安門事件直後の数人と宗教団体「法輪功」関連の数人、そして少数民族を除けば、ほとんどいないといわれる(※1)。

※1:過去の政治亡命認定について訂正し、少数民族を加えました(2018年8月20日22時30分)。

日本は政治亡命を受け入れない――これが通説だ。だが、難民申請という制度があり、実際に迫害されている事実がある以上、少なくとも申請する権利はある。

プロフィール

李小牧(り・こまき)

新宿案内人
1960年、中国湖南省長沙市生まれ。バレエダンサー、文芸紙記者、貿易会社員などを経て、88年に私費留学生として来日。東京モード学園に通うかたわら新宿・歌舞伎町に魅せられ、「歌舞伎町案内人」として活動を始める。2002年、その体験をつづった『歌舞伎町案内人』(角川書店)がベストセラーとなり、以後、日中両国で著作活動を行う。2007年、故郷の味・湖南料理を提供するレストラン《湖南菜館》を歌舞伎町にオープン。2014年6月に日本への帰化を申請し、翌2015年2月、日本国籍を取得。同年4月の新宿区議会議員選挙に初出馬し、落選した。『歌舞伎町案内人365日』(朝日新聞出版)、『歌舞伎町案内人の恋』(河出書房新社)、『微博の衝撃』(共著、CCCメディアハウス)など著書多数。政界挑戦の経緯は、『元・中国人、日本で政治家をめざす』(CCCメディアハウス)にまとめた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:アサド氏逃亡劇の内幕、現金や機密情報を秘密裏

ワールド

米、クリミアのロシア領認定の用意 ウクライナ和平で

ワールド

トランプ氏、ウクライナ和平仲介撤退の可能性明言 進

ビジネス

トランプ氏が解任「検討中」とNEC委員長、強まるF
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプショック
特集:トランプショック
2025年4月22日号(4/15発売)

大規模関税発表の直後に90日間の猶予を宣言。世界経済を揺さぶるトランプの真意は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 2
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はどこ? ついに首位交代!
  • 3
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 4
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 5
    「2つの顔」を持つ白色矮星を新たに発見!磁場が作る…
  • 6
    300マイル走破で足がこうなる...ウルトラランナーの…
  • 7
    今のアメリカは「文革期の中国」と同じ...中国人すら…
  • 8
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 9
    トランプ関税 90日後の世界──不透明な中でも見えてき…
  • 10
    米経済への悪影響も大きい「トランプ関税」...なぜ、…
  • 1
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜け毛の予防にも役立つ可能性【最新研究】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ? 1位は意外にも...!?
  • 3
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最強” になる「超短い一言」
  • 4
    あなたには「この印」ある? 特定の世代は「腕に同じ…
  • 5
    パニック発作の原因とは何か?...「あなたは病気では…
  • 6
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇…
  • 7
    中国はアメリカとの貿易戦争に勝てない...理由はトラ…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    動揺を見せない習近平...貿易戦争の準備ができている…
  • 10
    【渡航注意】今のアメリカでうっかり捕まれば、裁判…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 6
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 8
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story