コラム

中国には制裁もHIMARSも効かぬ? 台湾有事に向け、デジタル人民元が抜け穴に

2022年10月12日(水)17時15分
スクリーンの習近平

習近平の思惑は?(2022年10月) Florence Lo-Reuters

<ウクライナで苦戦するロシアの姿を見守る中国は、デジタル通貨や衛星システムなどの構築でロシアの二の舞を避けるべくハイテク政策を推し進めている>

[ロンドン発]ウクライナ侵攻で西側から前例のない大規模な経済制裁を受けたロシアを教訓に、中国が台湾に侵攻するシナリオに備えて国際的な制裁から逃れる中央集権的な「デジタル人民元」を構築しようとしていると、通信・電磁波・信号などの情報収集(シギント)を担当する英政府通信本部(GCHQ)のジェレミー・フレミング長官が警鐘を鳴らした。

「中国は教育への投資、産業の発展、近代的なデジタル技術の発展、有能な軍隊の構築というテクノロジーのサイクルを利用して超大国へと進化している」。11日、フレミング氏は英シンクタンク、王立防衛安全保障研究所(RUSI)で安全保障をテーマに講演し、テクノロジーの超大国になった中国の脅威を指摘した。

221012kmr_drc02.jpg

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)で講演するジェレミー・フレミング長官(筆者がスクリーンショット)

英国は中国の技術開発に対抗するため行動するか、後でその結果に直面するか、歴史的な「スライディング・ドアの瞬間」にあるとフレミング氏はいう。「将来の戦略的技術的優位性はわれわれが次に何をするかにかかっている。力を合わせれば流れを有利に変えられる」と力を込めた。

「スライディング・ドアの瞬間」とは1998年の英米ラブコメ映画『スライディング・ドア』に由来する。映画ではロンドン地下鉄の電車のドアが閉まって乗れなかった場合と閉まる前に乗車できた場合とで主人公ヘレンの恋の行方や運命がどのように変わっていくかが描かれる。一見取るに足らないようだが、将来を大きく変える重要な瞬間のことを言う。

西側はテクノロジーにおける戦略的優位性を脅かすいかなる脅威にも警戒する必要があるとフレミング氏は警告する。「中国にとってテクノロジーは単なる機会、競争、協力の場ではなく、支配力、価値観、影響力をめぐる戦場と化した」。中国共産党独裁政権は国内での権力支配を強化し、海外への影響力を拡大しようとテクノロジーの研究・開発に力を注ぐ。

中国が世界に先駆けてデジタル通貨を開発する理由

フレミング氏によると、2019年、中国は世界の総特許出願数の43%を占めた。こうした中国の技術開発は「私たち全員にとって大きな脅威」になるという。その一つがデジタル通貨だ。

中国は14年、中国人民銀行内に専門チームを設立し、デジタル通貨の調査を開始した。17年に中国人民銀行デジタル通貨研究所(北京)を開設してデジタル通貨技術と応用研究に着手。18年には深セン金融技術有限公司、南京フィンテック研究イノベーションセンター、中国人民銀行デジタル通貨研究所(南京)応用モデル基地を相次いで設立した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ビジネス

中国、リチウム電池生産能力の拡大抑制へ 国際市場の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story