コラム

コロナ再流行、ワクチン接種義務化の是非をめぐり暴動が吹き荒れる欧州

2021年11月22日(月)16時13分

世界保健機関(WHO)のハンス・クルーゲ欧州地域事務局長は英BBC放送で「早急な対策を講じない限り、来年3月までにさらに50万人の死亡者が出る恐れがある」と警鐘を鳴らした。にもかかわらず、スイス、クロアチア、イタリア、北アイルランド、北マケドニアでもワクチンパスポートや接種義務化に反対して同様の抗議デモが行われた。

国際的な統計サイト「データで見る私たちの世界(Our World in Data)」で人口100万人当たりの1日新規感染者数を見ると、感染者数が高止まりしているイギリスに比べてもオーストリア、ベルギー、オランダで急激に感染が広がっていることが分かる。感染は旧共産主義圏諸国でも急拡大している。

coronavirus-data-explorer.jpeg

ロンドン大学衛生熱帯医学大学院に拠点を置く「ワクチン信頼プロジェクト」によると、ワクチン接種率が23%、34%と最も低い欧州連合(EU)加盟国のブルガリアとルーマニアでは過去のピークを上回る感染者と死亡者を記録した。ワクチン接種の責任を負う政府機関に対する深い疑念から、十分なワクチンを入手できるにもかかわらず、ワクチンを接種しない人たちを生み出しているという。

「義務化でも接種率が上がるとは限らない」

ピーター・イングリッシュ前英医師会(BMA)公衆衛生医学委員会委員長はこんな疑問を投げかける。「接種義務化の問題点は接種率が低いことを必ずしも改善できないことだ。接種率がすでにかなり高い場合はなおさらだ。強制力を持たせるのも難しい。同意を得られない人にどうやってワクチンを接種するのか。ワクチンを接種する人の割合は義務化で実際に増えるのか」

「義務化されると、ワクチンへの不信感を高め、反対意見や抗議を増加させ、その結果、逆に接種率を低下させることになるのか。どのような場合に接種の免除を認めるのか。人々が接種を免れる抜け道を探してゲーム化してしまうかもしれない」

「ワクチン信頼プロジェクト」で約1万7千人を対象に調査した結果、ワクチンパスポートはワクチンを接種するかどうか迷っている人の気持ちを後退させてしまう可能性があることが分かっている。雇用主から接種を迫られていると感じている医療・福祉従事者でさえ、ワクチンを接種する可能性は下がるという結果が出ている。

英ブリストル大学のデービッド・マシューズ教授(ウイルス学)は「多くの国で再びロックダウンに入ったのは接種が遅れているか、接種率が低いことを反映している。何らかの理由で接種しないと決めた人との対話を続ける必要性が改めて浮き彫りになっている。ワクチンを打たない理由をもう一度考え直してくれるよう安全性と効果を説くしかない」と話した。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米雇用なお堅調、景気過熱していないとの確信増す可能

ビジネス

債券・株式に資金流入、暗号資産は6億ドル流出=Bo

ビジネス

米金利先物、9月利下げ確率約78%に上昇 雇用者数

ビジネス

現在の政策スタンスを支持、インフレリスクは残る=ボ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 5

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 6

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    映画『オッペンハイマー』考察:核をもたらしたのち…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story