コラム

画期的なCOP26合意、延長戦の舞台裏

2021年11月14日(日)20時20分

議長国のイギリスが主導してきた「脱石炭」の書きぶりに最後の最後でインドと中国が異を唱えたのだ。主要先進国で30年代、世界全体では40年代を目標にアベイトメント措置のない石炭火力発電からの移行を実現する「石炭からクリーンパワーへの移行に関する声明」にインドや中国だけでなく、アメリカも署名していない。

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「脱石炭」の書きぶりについて協議するインド(左)と中国(右)の特使(同)

ドナルド・トランプ前大統領が離脱したパリ協定に復帰したアメリカからはジョー・バイデン大統領をはじめバラク・オバマ元大統領、アル・ゴア元副大統領、自ら設立した宇宙開発企業の宇宙船で宇宙旅行に成功したIT大手アマゾン創業者ジェフ・ベゾス氏らがCOP26に乗り込んできて強烈な存在感を示した。

パリ協定を動かしたいというバイデン政権の熱意を受け、ケリー氏が走った。シャルマ議長を入れ、アメリカ、EU、中国、インドの4者会談を開いた結果、最終案の「アベイトメント措置のない石炭火力発電や非効率的な化石燃料補助金の段階的廃止(phase-out)」は「段階的縮小(phase-down)」に書き換えられた。

21世紀はアメリカ、EU、中国、インドの時代になることを強く予感させた。

「脱石炭」に踏み出せず、存在感のない日本

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「段階的廃止」が「段階的縮小」に書き換えられ、涙ぐむシャルマ議長(同)

本会議が再開したのはシャルマ議長が求めた「1分後」ではなく「3時間15分後」だった。書き換えを報告する際、シャルマ議長は「このプロセスがどのように展開したかについて謝罪する。深くお詫びする」と涙ぐんだ。それでも「脱石炭」を主張してきた国々からスタンディングオベーションを受けた。

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シャルマ議長にスタンディングオベーションを送る各国政府代表団(同)

COPの文書に「脱石炭・化石燃料」が盛り込まれるのは異例。パリ協定「最後のピース」と呼ばれる6条のルールブックができたのも画期的だ。これで国際的な排出削減量取引に弾みがつく。シャルマ議長の功績は大きい。それに比べ日本は山口壮環境相もCOP26に参加したものの「脱石炭」に踏み出せず、存在感のなさだけが浮き彫りになってしまった格好だ。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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