コラム

スウェーデンは本当に「集団免疫」を獲得したのか 第二波におびえる日本の対策はそれより緩い

2020年08月11日(火)11時17分

スウェーデンで集団免疫の獲得を主導するテグネル氏(7月30日,ストックホルムで会見) Naina Helen Jama/ REUTERS

<最悪期に115人に達した1日の死者はゼロに>

[ロンドン発]新型コロナウイルスのワクチンや治療薬の開発は長期戦になると踏み、ひたすら「集団免疫」の獲得を目指して緩い対策をとってきた北欧スウェーデン。最悪期に115人に達した1日の死者数がゼロになる日もあり、光明が見えてきた。

swedendeath.jpg
worldometerより

100万人当たりの死者数を欧州の主要国や北欧諸国、日本と比べると次の通りだ。第一波を乗り越えた段階でスウェーデンは隣接する北欧諸国や日本に比べ、一桁も二桁も多い犠牲を出してしまった。

【欧州主要国との比較】
ベルギー 851人
イギリス 686人
スペイン 610人
イタリア 582人
スウェーデン 570人
フランス 464人
オランダ 359人

【北欧諸国や日本との比較】
スウェーデン 570人
デンマーク 106人
フィンランド 60人
ノルウェー 47人
アイスランド 29人
日本 8人
(worldometerより)

免疫のできた感染者が壁になり新たな感染を防ぐ集団免疫の獲得を主導してきたスウェーデン政府の疫学者アンデシュ・テグネル氏は地元メディアに対し「第2フェーズは検査と感染者と濃厚接触した人の追跡を徹底してクラスター(集団感染)の発生を抑える」と強調する。

いつの間にか対策を強化していたスウェーデン

異端の「集団免疫」戦略で欧米メディアに激しくたたかれたスウェーデンより日本の方が緩い社会的距離政策をとっていたとは恥ずかしながら知らなかった。

貧困・格差・疫病・飢餓・紛争・気候変動などグローバルな課題に取り組む英オックスフォード大学の統計サイト「Our World in Data」を見てみよう。スウェーデンと日本のパンデミック対策の厳格さは下のグラフが示す通り、緊急事態宣言の解除後は日本の方が緩くなっている。

covid-stringency-index (1).jpg
Our World in Dataより

スウェーデンは中国式の都市封鎖やマスク着用を採用せず、保育園や小・中学校の一斉休校はしないという先進国では異端とも言える緩い対策を続けている。その一方で50人以上の集会禁止や高齢者介護施設への訪問制限を実施している。

ワクチンや治療薬ができなければ長期的に見てコロナによる死亡率は各国とも同じレベルに達するという科学的思考が背景にはあった。しかし死者数が急増し、実は対策を日本の緊急事態宣言時並みに厳格化していたことがグラフからはうかがえる。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国関連企業に土地売却命令 ICBM格納施設に

ビジネス

ENEOSHD、発行済み株式の22.68%上限に自

ビジネス

ノボノルディスク、「ウゴービ」の試験で体重減少効果

ビジネス

豪カンタス航空、7月下旬から上海便運休 需要低迷で
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 5

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 9

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 10

    自宅のリフォーム中、床下でショッキングな発見をし…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story