コラム

中国の一帯一路「もう一つのシルクロード」にも警戒が必要だ

2019年06月06日(木)18時50分

MAS_8293 (720x480).jpg
COSCOが開発したピレウス港のコンテナ埠頭(1月、筆者撮影)

香港のアジア・タイムズによると、米国や北大西洋条約機構(NATO)は中国が欧州の港湾施設の支配権を強めていることに対し、軍事スパイの懸念を強めている。しかしジェノバ港湾当局は「スパイは問題ではない。米国もNATOもイタリアの商業港しか使っていない」と反論する。

安全保障上の利害が対立しない中国とEUは経済関係を強化するのにためらいがない。とりわけ、ノドから手が出るほど外資を必要とする南欧諸国のギリシャ、イタリア、ポルトガル、成長著しい旧共産圏諸国は全く歯止めがかからない。

しかし、中国問題を研究する独シンクタンクMERICSのカイ・フォン・カルナップ氏は「もう一つのシルクロード」についても警鐘を鳴らす。カルナップ氏にスカイプでインタビューした。

――中国が欧州に一帯一路を広げる理由は

「まず購買力のある欧州に市場を広げたいというのが初期段階。今は政治的な影響圏を広げる段階に入っている。とりわけ米国に対抗するため、仲間を集めようとしている。欧州は中国にとって経済的にも政治的にも同じほど重要な地域になっている」

――最近の論文で中国が一帯一路にブロックチェーンを組み合わせようとしていると指摘したが

「ブロックチェーンは1つである必要はなく、多くの企業の異なるブロックチェーンが併存するようになる。アリババだけでもすでに1つ以上のブロックチェーンを持っている。もっと多くのロジスティクス企業が存在する」

「ロジスティックの効率性が重要になってくる。最も早いサービスとテクノロジーが一帯一路の企業や消費者に必要となる。中国企業は唯一のブロックチェーンではなく、より効率的にデータを保存し、分散させ、処理する方法を適用しようとしている」

――中国は貿易のためにブロックチェーンを活用しようとしているのか

「その通りだ。財(モノ)の移動をより効率的にしようとしている。中国国外でのモノの移動だけでなく、消費者とは直接関係のないレアアース(希土類)などの移動もそうだ。国境を超えるすべてモノを効率的に管理するインフラのようなものだ」

――もうすでに実用化されているのか

「それに答えるのは難しい。マーケティングのためのキャンペーンやスローガンは出回っている。アリババはブロックチェーンを使って50カ国でモノの移動を追跡している。海運会社はブロックチェーンで3000万ものモノを管理している。これらは民間のブロックチェーンだ」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

AUKUSと日本の協力求める法案、米上院で超党派議

ビジネス

米国株式市場=ダウ6連騰、S&Pは横ばい 長期金利

ビジネス

エアビー、第1四半期は増収増益 見通し期待外れで株

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、金利見通しを巡り 円は3日
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story