コラム

「日本はもはや後進国であると認める勇気を持とう」への反響を受け、もう一つカラクリを解き明かす

2019年09月10日(火)15時00分

日本製のパソコンは本当に競争力があったのか?

産業競争力という面でも、日本は昔から傑出した技術大国だったわけではない。

筆者の大学の専攻は原子核工学だったが、専門課程に進み、本格的に原子炉物理学など学び始めた時、日本の得意分野であるとされていた原子力技術についても、重要な部分はすべて米国によって確立されているという現実を知り、少しばかりショックを受けた記憶がある。

ITについても同様である。1980年代、一世を風靡したPC-8800シリーズ、PC-9800シリーズといったパソコン製品は、製造こそ日本で行われていたが、パソコンの中枢部であるCPUの基本設計は米インテル社が、パソコン全体については米IBM社が行ったものである。日本メーカーはこれを流用して製品を製造していたに過ぎない。

当初、日本メーカーは日本語環境で差別化できるとしていたが、パソコンの性能が向上するにつれて、ソフトウェアで日本語を処理できるようになり、日本メーカーは完全に敗北した(ちなみにインテルがCPUの基本技術を開発するにあたっては、渡米してインテルに採用された日本人技術者が大きな役割を果たしている。個人の才能を企業や国家に生かせない日本の欠点も昔から同じである)。

厳しい現実だが、正しい戦略を立てるためには、現状を正しく認識することが重要である。日本がこれ以上、貧しい国にならないためには、大国であることを前提とした企業戦略や国家戦略をゼロから見直す必要があるだろう。

【参考記事】トヨタのディーラー網見直しから見えてくる日本経済の新しい姿

20190917issue_cover200.jpg
※9月17日号(9月10日発売)は、「顔認証の最前線」特集。生活を安全で便利にする新ツールか、独裁政権の道具か――。日常生活からビジネス、安全保障まで、日本人が知らない顔認証技術のメリットとリスクを徹底レポート。顔認証の最先端を行く中国の語られざる側面も明かす。


プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米エール大卒業式で学生が退場、ガザ戦闘に抗議

ビジネス

豪BHP株が3カ月ぶり高値、アングロ正式買収提案の

ビジネス

午前の日経平均は小幅続伸、半導体株上昇も次第に伸び

ワールド

ガザ支援物資、海上からの搬入難航 エジプトで山積み
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 4

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 5

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 6

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 7

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 5

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 8

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 9

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 10

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story