コラム

トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(前編)

2017年03月06日(月)19時00分

日本の消費税は現在8%であっても日本からの輸出は免税(0%)になることは関係者の間では周知の事実でも、一般には知らなかったという方が多いはず。また、消費税・付加価値税の採用国では、輸出企業が輸出品を作るための原材料や部品の購入など国内の仕入れの段階で支払った消費税・付加価値税については国から返してもらえる還付制度が存在することも多くの方が御存知なかったはず。何はさておき、トランプ政権の出現で消費税制度をあらためて知る・考える機会を得たことは良いことです。

【参考記事】米共和党はトランプ経済政策にNOと言えるか

この「還付」は消費税・付加価値税などの間接税だけにWTO(世界貿易機構)が例外的に認めている独特の制度ですが、英語に直訳すならrefundという単語が相当します。しかし、歴代の米公文書でもトランプ政権でもrefundとはせずrebate「販売奨励金」としています。還付制度は各国の輸出企業への奨励制度に映るというわけです。直接税でのリベートをWTOは認めていませんので、直接税に依存した税体系で連邦国家として消費税・付加価値税を採用していないアメリカでは米輸出企業にリベートを渡す手段がありません(渡せばWTO違反になります)。

消費税は輸出企業の販売奨励の側面があるとの指摘に対して以前は反論を頂戴することもありましたが、例えば自民党の前税調会長の野田毅氏すら鼎談をした際に「スタートしたときから、輸出業者に対する補助金的な色彩はあった」(文藝春秋2013年9月特別号)と話していました。象徴的な事例ではありますが、少しでもこの税制をかじった方であればどなたでも御存知のことであり、関税や輸出奨励の側面は日本以外では当たり前のこととして議論のベースになっているのが、今回のトランプ政権の「国境税」でようやく認知されたのではないでしょうか。ベースとなる知識や事実が浸透すれば消費税の本質的議論がしやすくなりますので、この点も日本の一般国民にとっては朗報と言えるでしょう。

コラム後編に続く

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで

ビジネス

円安、輸入物価落ち着くとの前提弱める可能性=植田日

ワールド

中国製EVの氾濫阻止へ、欧州委員長が措置必要と表明

ワールド

ジョージア、デモ主催者を非難 「暴力で権力奪取画策
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story