誰が「ドル売り介入」最大のチャンスを阻むのか
6月初旬の急激な円安水準について、そして円安を受けての要人発言の変容が物議を醸しています。細かい話で恐縮ですが、最近の為替動向について少しだけ時系列に推移を追っていきたいと思います。6月第一週の週末の5日(金)のニューヨーク市場で、一時1ドル125円70銭台までドル買い・円売りが加速しました。前日に123円70銭台を見ていたことを考えると、この日一日で一気に2円近く動くドル急騰、円の急落の展開です。2002年6月11日以来13年ぶりの円安となったことで俄然、週明けの為替動向が注目を浴びていました。そんな中6月10日(水)に、黒田日銀総裁の「ここからさらに円安はありそうにない」との円安けん制発言が飛び出したことで、今度は一転して1ドル122円台まで円高に触れた――との解説が一般的です。
ただ、マーケットの動向をみると、週明けの8日(月)から、すでに直近のドルの最高値より反転、1円50銭ほどドル安・円高となって、結局その日は124円台の前半で取引が終了。翌9日(火)には123円台へとさらなるドル安・円高が進んでいました。相場用語では「全値戻し」と言いますが、5日の約2円分のドル急騰・円急落分は翌営業日からの2日間で全て解消された状況です。そこで10日の黒田発言を迎えるわけですが、もちろんこの発言が一層のドル安・円高へと相場を加速させたのは事実です。しかし、目先のドル安・円高の流れはそれ以前、週明けの早い段階から始まっていたとみるべきでしょう。
13年ぶりのドル高・円安の流れからの転換、そのきっかけの1つに、実際に為替取引に関わっている、現場に近い人たちの間では週末の6月6日(土)付で公表となった英エコノミスト誌の記事があるようです。(8日にオバマ大統領のドル高けん制発言も流れましたがホワイトハウスは否定しています。国際会議の舞台裏について我々レベルではわかりかねますが、こうしたドル高に関する言及に注目が浴び、市場が一喜一憂する、そんな国際世論になりつつあるということだけはわかります。)
「景気減速の兆し――円安は各地に問題をもたらしている」と題された記事ではアベノミクスの有効性は激しい議論の俎上にある問題とし、「安倍氏が2012年に総理大臣になってから、まずまずの経済成長とインフレの期間があったが、長続きはしなかった」と指摘。
日本のGDPは低迷、デフレに逆戻りと精彩を欠く中で、アベノミクスによって明らかに違いを見せたのが円の価値であり、安倍政権がスタートした2012年末時の1ドル87円から本年6月の125円まで、過去30カ月で30%以上円が減価したことを紹介しています。
強烈なのは次の一文でしょう。
A weaker yen creates two challenges for the rest of the world.
(円安は日本以外の各国に2つの難題を作りだしている。)
世界は今、日本発の円安に起因する2つの難題が立ちはだかっている、というものです。一流とされる世界的な経済誌が、あたかもアベノミクスの円安政策が全世界を敵に回すかのような書きっぷり、というのは大袈裟としても少なからずそうしたニュアンスを内包していて、国際世論を受けて日本の当局はどう対応するのか、との思惑が市場関係者の一部に湧いた。その結果が週明けからのドル売り・円買いの反応になったとも言えるでしょう。
具体的に2つの難題とはいかなるものか。第一に、円安により日本の輸出企業の国際競争力の増強があげられています。どの国の輸出企業にとっても都合がいいのは自社製品が通貨安によって相対的に安くなる自国通貨安です。
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