コラム

メルケル独首相が、ツイッターのトランプアカウント停止を「問題」とした真意

2021年01月15日(金)11時46分

メルケルは米議会議事堂襲撃を非難し、トランプにも責任があると言ったのだが?(写真は2019年12月、英ワトフォードで開かれたNATO首脳会議で) Peter Nicholls-REUTERS

<トランプ支持者による米議会襲撃事件を受けて、トランプのアカウントを永久停止したツイッター社の判断は間違っていたのか?>

1月8日、アメリカ合衆国トランプ大統領のTwitterアカウントが永久停止処分となった。1月6日の米議会襲撃事件を受けて、Twitter社はそれを示唆、肯定するようなトランプのツイートを問題視し、同日に一時凍結処分をしていた。一時凍結は7日に解除されたが、その直後に投稿されたツイートがさらなる暴動を示唆していると解釈されうるものだったため、翌日にアカウントが永久凍結された。

この件については、米議会襲撃事件を繰り返さないためには止むを得ない措置だったとするものや、トランプ大統領に対する「言論弾圧」だとするものなど、賛否に分かれて激しい議論の応酬がある。

メルケルの「問題視」

ドイツのアンゲラ・メルケル首相が、Twitterによるトランプアカウントの永久凍結を問題視しているという報道が1月11日ごろから国内外の各メディアに登場しはじめた。この報道は、トランプ大統領の「言論の自由」を守るべきだとする人々を勢いづかせている。ところが、この件に関するドイツ本国メディアの記事を見ていると、メルケルは無条件にトランプの「言論の自由」を肯定しているわけではないことが分かる。

メルケルの発言とされているものは、正確にはシュテファン・ザイバート報道官によって伝えられたものである。ここでメルケルはまず、政治的対話は憎悪に満ちたものや暴力をそそのかすものではあってはならないと述べているが、これはトランプの振る舞いを批判しているものだと解釈できる。そしてその上で、根源的な基本権としての言論の自由は、立法機関によってのみ制限できるのであって、Twitterのような一企業によってなされてはならないと主張している。

またザイバート報道官は、根本的な問題としてSNSにおける誹謗中傷やヘイトスピーチの蔓延を指摘し、プラットフォーム企業の社会的責任についても言及している。プラットフォーム企業は誹謗中傷やヘイトスピーチに無策であってはならず、そうしたコメントについては警告していく必要があるというのだ。しかしドイツにおいては、その枠付けは立法において行われるのが望ましいという。

ドイツのヘイトスピーチ対策

メルケル発言のポイントは、これがドイツ首相の立場でなされたものということだろう。インターネット上の憎悪扇動対応に関して、日本やアメリカとドイツの事情は異なっている。ドイツは昨年6月、憎悪犯罪の増加に伴い、ネット上のヘイトスピーチを規制する法改正を行ったばかりであった。この法改正で、プラットフォーム企業はヘイトスピーチを含む「犯罪的コンテンツ」を連邦刑事庁に報告するよう義務付けられている。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story