コラム

21世紀の合言葉はハイブリッドJAPAN

2011年02月22日(火)15時50分

今週のコラムニスト:クォン・ヨンソク

 先日、成蹊大学にオーストラリア国立大学のテッサ・モリス=スズキ教授の講演会を聞きに行った。そこで彼女は、現実から目を背けることなく、明確で希望あふれる2025年の日本と北東アジアの未来予想図を描こうと提案した。

 その話を聞いて僕が考えたのは、21世紀の日本の「明確で希望あふれる」キーワードだ。そしてそれは、アジア杯で優勝したサッカー日本代表が教えてくれた。「ハイブリッド・ジャパン」だ。

 日本でハイブリッドと言えば、車など技術面のイメージの方が強い。だが、この言葉の第1の意味は「雑種、混成」だ。

 その意味で今回のサッカー日本代表は、ハイブリッドの格好のモデルケースだった。これをサッカーだけで終わらせず、大会での快挙を成功事例として、日本全体のシステムに適用すべきだろう。

 日本代表の再スタートは鮮やかだった。ワールドカップ南アフリカ大会での善戦に慢心することなく、次を見据えてアルベルト・ザッケローニという素晴らしい外国人監督を迎えた。天才肌ではなく、緻密な理論と揺るぎない信念に基づく学者肌の指揮官を得たことで、日本の若い選手は大いに成長した。

 一方の韓国が、協会の影響力が及びやすい韓国人監督にこだわり、史上最高のスクワッドと呼ばれるメンバーをそろえながらも、そこそこの結果しか出せなかったこととは対照的だ。

 これが日本人監督なら、Jリーグでも確固たるレギュラーとは言い切れない李忠成をフル代表に選び、決定的な場面で使えただろうか。しかも、活躍できなければ○○人だからと揶揄され、「国賊」扱いされかねないリスキーな選手を。

韓国ネチズンも日本を称賛

 僕が心底驚き、感動したのはチームメートの本田圭祐が李を「ただなり」ではなく「チュンソン」と呼んだこと。日本に帰化した在日コリアンでも、ルーツや民族性が否定されることなく個人として尊重されるチームだったのだ。「超日本人」たる本田の真骨頂だったとも言える。

 こうしたハイブリッドな文化がチームに一体感をもたらし、ザックが強調した「団結力」につながった。日本サッカー史に残る華麗なゴールが生まれたのは、彼が韓国人だからでも、日本人だからでもない。彼の個人的な熱い思い、彼を信頼した監督の慧眼と勇気、国籍・民族を相対化できるヨーロッパでプレーするチームメートの存在、日本的な「和」の文化とグローバルスタンダードが織り成した、ハイブリッドなゴールだったのだ。

 彼はインタビューでも、「自分」を強調した。それは「我」を強調したわけではなく、国家や民族より「私」を重視したいというメッセージだったのだと思う。

 こうした代表チームの「ハイブリッド化」の背景には、日本サッカー界の文化と長年にわたる努力がある。フィリップ・トルシエやイビチャ・オシムなど有能で「日本思い」の外国人監督を招聘し、適切な強化試合と海外合宿を組み、コパ・アメリカ大会への参加など、韓国が羨むほどのサッカー行政を展開した。韓国のようにコネや学閥が選手の選抜や起用に影響を与えるという非民主的なこともなく、選手の帰化も積極的に推進した。

「李忠成を見棄てた韓国は3位、李忠成を受け入れた日本は優勝。この結果がすべてを物語る」。これはヤフー・コリアへの韓国ネチズンの書き込みだ。他にも、韓国社会の排他性と日本社会の寛容性を対比する声が多かった。これは、今後の日本のあり方を考える上で非常に重要な指摘ではないだろうか。

「ハイブリッド・ジャパン」というキーワードは、日本古来の歴史性とも合致するし、外圧の匂いがする「国際化」「グローバル化」より日本人には受け入れやすいかもしれない。確実に言えることは、外国人監督が完全には感情移入できそうにない「サムライ」より、斬新で強そうに見えるということだ。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

独サービスPMI、11月は50下回る 第4四半期は

ワールド

韓国野党、大統領弾劾訴追案を国会に提出 6日か7日

ビジネス

OECD世界経済見通し、安定的な成長予想 保護主義

ビジネス

中国成長率、5%未満でも容認できる 質を重視=人民
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story