コラム

光の98.1%を反射する「世界一真っ白な塗料」が温暖化から地球を救う?

2021年10月06日(水)17時15分
世界一真っ白な塗料

超白色塗料によって従来よりも室内の温度を低く保つことができる(写真はイメージです) ognianm-iStock

<米パデュー大の研究チームが「世界一白い塗料」の開発に成功し、ギネス世界記録に認定された。建物の屋根や外壁に塗ることで、周囲に比べて温度が上がりにくくなる効果があるという>

世界一の記録を集めた『ギネス世界記録2022(英名:Guinness World Records 2022)』が、9月16日に発売されました。(日本語版は11月に発売予定)

「ギネス・ブック」は1955年に初めて出版されました。きっかけは、現在も著名な黒ビールである「ギネス」の醸造所で最高経営責任者だったヒュー・ビーバー卿です。ビーバー卿は、以前に仲間と「ヨーロッパで一番速く飛べる狩猟鳥は何か」という議論で盛り上がったことを思い出し、「世界で一番を集めた本を作れば、酒場で『最も○○なものは何か?』という議論になったときに話題と解決になる」と考えました。

こうしてできた「ギネス・ブック・オブ・レコーズ(英名:The Guinness Book of Records)」は、略してギネス・ブックと呼ばれました。その後、2000年に出版元がギネス醸造所から独立して「ギネス世界記録」とタイトルを変更して現在にいたります。世界100カ国以上で発売され、累計発行部数が1億4700万部にのぼるベストセラー書籍です。

最新の2022年版で一番の話題は、世界的人気のK-POPグループBTS(防弾少年団)が、これまでに「ライブストリームされたコンサートの最多チケット販売数(756,000枚)」「ビルボードのデジタル・ソング・セールス・チャートに1位でランクインした最長期間(18週)」など23のギネス記録を達成したために、ギネス殿堂入りをしたニュースです。

いっぽう、科学トピックスに目を向けると、米パデュー大学は「光の98.1%を反射する『世界一真っ白な塗料』を開発して、ギネス世界記録と認定された」と大々的に発表しました。ちなみに市販の白い塗料の光の反射率は、80〜90%です。

紫外線や赤外線の大半も反射

シウリン・ルアン教授を中心とするパデュー大の研究チームは、7年前から「超白色塗料」の開発に取り組んでいます。昨年10月には、貝殻や石灰石から取れる低コストの炭酸カルシウムを高濃度に含んだアクリル塗料を開発し、光の95.5%を反射することに成功しました。

ギネス世界記録に認定された「光の98.1%を反射する塗料」の開発に成功したのは、今年4月です。炭酸カルシウムの代わりに、化粧品のファンデーションやバリウム検査(胃部X線検査)に使われる硫酸バリウムを使ったことで、前回を上回る成果をあげることができました。太陽光には紫外線、可視光線、赤外線が含まれています。可視光線だけでなく、紫外線や赤外線の大半も反射させるために、粒子をさまざまな大きさにして幅広い光の波長に対応させる工夫もしました。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト/博士(理学)・獣医師。東京生まれ。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第 24 回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中ロ首脳会談、包括的戦略パートナーシップ深化の共同

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトに10兆円投資 30年までに

ワールド

ロシア軍、ウクライナの全方面で前進している=ショイ

ビジネス

日経平均は3日続伸、約1カ月ぶり高水準 米CPI後
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story