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手に汗握るディープラーニング誕生秘話。NYタイムズ記者が書いた「ジーニアス・メーカーズ」【書籍レビュー】
Googleに入社したヒントン教授の教え子たちは、膨大な額の設備投資を要求した。あまりの額に担当者は最初、首を縦にふらなかったらしいが、最終的に社長判断でやっと予算が確保されたという。しかしディープラーニングに軸足を移したことで、投資額を大きく超える収益がその後Googleにもたらされることになる。
私はこれまで何度も米国出張をしてAIのトップ研究者を取材してきた。日米のトップ研究者20人以上と直接会ってきた、とこれまで何度か自慢げに語ったことがある。ところがこの本の著者のメッツ記者は、AIに関わる重要人物を500人以上も取材してきたという。当然情報量は私とは雲泥の差で、「あのとき、舞台裏ではこんなやり取りが行われていたのか」というようなエピソードが本の中で次から次へと紹介され、個人的には非常におもしろい内容になっている。
ここ数年、AIに携わってきた人たちも、私と同じような感想を持つことだろう。同じ時代を生きてきたはずなのに、自分とは異なる視点から見たAI研究、AIビジネスの過去数年間は、まったく別の様相を呈している。この本の視点を自分の体験してきたことに加えることで、過去、現在、未来の見え方がより立体的になることだろう。
DeepMindの内情
私自身、特に興味深かったのは、韓国の囲碁の名人を打ち破ったAI「AlphaGo」を開発したことで世界的な注目を集めた英国のAIベンチャーの雄、DeepMind社の話だ。同社のCEOのデミス・ハスビス氏が小さいころから神童であったというエピソードは何度も目にしてきたが、実際にDeepMindがどのような会社なのか詳しいことを知りたかった。特に同社を買収したGoogleのAI研究部門との棲み分けはどうなっているのか、などということを知りたかった。
この本によると、DeepMindとGoogleの AI部門との対立はかなり激しいようだ。科学者や技術者は淡々と仕事をこなす穏和な人たち、といったイメージを持つ人が多いが、実際には彼らも人間。いろいろな感情があり、人間ドラマがある。ノンフィクションの人間ドラマは、読み物としても非常におもしろい。
AIに関わってこなかった人たちにとっても、歴史小説を読む感覚で、この本を楽しめることだと思う。「読み始めたら止まらない」と本の帯に書かれているが、その文言にウソはない。
また時代を大きく変えようとしているAIという技術が今、どの辺りを進んでいるのか、AIの重要人物たちはどのような未来を作ろうとしているのか、ということが手に取るように分かる内容になっている。
表紙の裏には、「これは、世界中にいる、ほんのひと握りの天才と、その天才を見いだして莫大な金を投資する実業家たちが、人類の未来を作り出す物語である」と書かれている。まさに、その通りの内容の本になっている。
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