コラム

ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(1/3)──「ピンクのマスクはカッコいい」、誰もがルールづくりに参画できる社会の到来

2020年07月15日(水)15時25分

司会者 これは興味深いポイントです。オードリー、あなたは先日の別の会話の中で、コロナ危機の際のピンクのマスクの話をしてくれました。市民テクノロジーのおかげで、ジェンダー主流派がピンクのマスクをサポートし、私たちの偏見を深く掘り下げて考えるという状況を実現できました。その例について少しお話いただけますか?

タン 確かにそうですね。台湾では、パンデミック対応システムに見られるような、私たちが言うところの社会イノベーションは、「速い」、「公平」、「楽しい」の三本柱で成り立っています。人々の知の集合体における「速い」の事例をお話ししましょう。

スマートフォンでも固定電話でも、電話を持っている人なら誰でも、フリーダイヤルの1922に電話をかけることができます。中央伝染病コマンドセンター(CECC)の電話番号です。

4月のある日、ある少年が電話をかけてきました。「うちの地区では、医療用マスクを配給してもらってるんだけど、マスクの色を選べないんです」。彼に配給されたマスクは、すべてピンク色でした。「ピンクのマスクをしていると、クラスメイトにいじめられたり、笑われたりするかもしれない」。なので、学校に行くのが怖いと言うのです。

その翌日、CECCが毎日行っているライブストリーム記者会見で、男性医療官も女性医療官も全員がピンクの医療用マスクを着用して登壇しました。

このことは、すぐに全国的な注目を集めました。有名人のアバターや有名なウェブページの多くがピンクに色を変えました。ピンクは突然、最もカッコいい色になりました。またこのことを通じてジェンダーに関する社会通念の問題についても考えさせられるいい機会になりました。ある意味、国民全員がトランスジェンダーぽくなったわけです(笑)。

ここでのポイントは、もしあなたが特定の社会通念に関して疑問を持っているのなら、電話一本で事態が変わる可能性があるということです。年齢は関係ありません。この少年はおそらく選挙権も持っていないと思います。

単純に電話をし、状況を説明したことで、CECCは動きました。もし何人かの男の子がピンク色だからといってマスクをしないのであれば、それは公衆衛生上の脅威です。すべての人にマスクをしてもらうため、CECCの医療官らは24時間以内にこのジェンダーに関する社会通念に対応してくれたのです。

この高速な反復サイクル、アジャイルな対応は、民間セクターをより強く、より強固なものにします。

コマンドセンターからの命令を待つことなしに、だれでもがルール作りに参画できるわけです。

基本的に、マスクをつけるということは、ある種のルールです。このルールが意味するものは、自分の手から自分を守るということです。台湾では、自分の健康には自分で気をつける、ちゃんと手を洗うというのが社会のルールです。マスクをつけるということは、このルールを自分自身と他人にリマインドすることでもあるのです。

マスクをするということは、他の人を保護するためにマスクを着用するという意味に加え、他の人を尊重するといった意味もあるので、感染モデルにおけるR値を減少させるための高い価値を持っています。またピンクの医療用マスクは、マスクをすることがカッコいいという要素も加えました。

統合すると、感染モデルに加えて、(ミームのような)情報感染モデルのR値も改善しているかもしれません。CECCは、このような社会にプラスとなるアイデアを増幅させる役割を担っています。これが「市民の共和国」というものです。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米報道官「キューバは大きな改革必要」、政権交代には

ビジネス

米国株式市場=続伸、エヌビディアなどAI関連株に買

ビジネス

FRB、1月のドル/円レートチェック実施を確認 議

ワールド

プーチン氏、米の対キューバ制限措置「受け入れられな
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポーランドが「核武装」に意欲、NATO諸国も米国の核の傘を信用できず
  • 2
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」の写真がSNSで話題に、見分け方「ABCDEルール」とは?
  • 3
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方...勝利のカギは「精密大量攻撃」に
  • 4
    生き返ったワグネルの「影」、NATO内部に浸透か
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    アフガニスタンで「対中テロ」拡大...一帯一路が直面…
  • 1
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 4
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」で…
  • 5
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 6
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 7
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 10
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story