コラム

薬を使わないデジタル療法で教育・医療にアプローチ AIが人間を進化させる未来とは

2020年02月05日(水)13時00分

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同博士は、こうしたデジタル療法を、精神疾患の治療や高齢者のボケ防止だけではなく、教育分野にも応用し、若者の学習効果の向上に努めていきたいとしている。

同博士は、最近ではこうした取り組みをデジタル療法と呼ばず、「体験療法(Experiential Medicin)」と呼ぶようにしているという。なぜなら「大事なのはデジタルテクノロジーを使うことではなく、体験を通じて脳の回路を組み替えること」だからで、同博士は「脳の回路を組み替えることができるのは、体験のみ。薬も電気刺激も可塑性を高めることはできても、組み替えることはできない」と、その理由を説明している。

HI(人間の知能)のためのAI。これこそ究極のAI活用法

同博士は、この6種類のゲームで学んだことをベースに、将来は統合した1つの体験療法を開発したいという。その体験療法の仕組みを通じて、当然ながら数多くの種類のデータが生み出されるだろう。その膨大なデータを使って、クローズド・ループの仕組みを回すには、人工知能が必要になってくる。人工知能以外に、ここまでの膨大なデータを解析できる仕組みはない。同博士は「体験的メディスンは、機械学習、特に強化学習を活かす最高の機会だと思う」と指摘する。

つまり人工知能が、体験療法の仕組みを動かすことによって、人間の知能の精度が向上する。「HI(人間の知能)のためのAI。これこそが、AIの究極の使い方だ」と同博士は言う。

医療の現場においても、教育の現場においても、人間の認知能力を高めるということが、世界的な大きな課題の1つである。同博士はそう力説する。環境問題、貧困問題、経済問題、国際政治問題など、地球上には多くの課題がある。しかし「われわれがこうした課題に意識を集中し続け、クリエイティブで賢明な解決方法を見つけ出すには、われわれ自身の認知能力を高める以外にない。環境問題を取ってみても分かるように、情報がどれだけそろっていても問題は解決しない」と指摘。人間の認知能力を高めることこそが、根本的な問題解決の方法であると強調している。

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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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