コラム

テック大手が軒並みスマートスピーカーに参入する理由

2017年05月24日(水)17時30分

戦いは長期戦になる。なのでクラウドAIの前哨戦であるスマートスピーカーは、それほど売れなくても、実は構わないのかもしれない。

勝負は、自社のクラウドAIを何人のユーザーが利用してくれるか。自社のクラウドAIにつながるスピーカー、自動車、おもちゃ、家電を利用する消費者の数が多ければ、それでいい。

日本ではスマホの利用者が数千万人いると言われるが、クラウドAIにつながったデバイスの利用者の総数がスマホのユーザー数を超えれば成功。そのときパラダイムは、スマホからクラウドAIに移行するのである。

家電メーカーのほうが有利?

勝負の本質がスマートスピーカーではなくクラウドAIであるならば、実は参入しようというプレーヤーはもっと多いことが分かる。

中国の家電大手美的集団は、ボイスで家電機器を操るコンセプトムービーを今年春に公開し、注目を集めた。

そこにはスマートスピーカーはない。ムービーに登場する美的集団の家電機器すべてが音声に対応しているのだ。

同社のDongyan Wang氏は言う。「ユーザーのニーズを知るのに、スマートスピーカーは必要ない。帰宅したばかりのユーザーに『疲れてない?』て聞いても『だいじょうぶ』と答えるかもしれない。でもすぐにお風呂に入ったり、ソファーに腰掛けて動かなかったりすれば、疲れていることは明らか。つまりスマート家電のほうが、スマートスピーカーよりもユーザーニーズを正確につかむことができる。そういう意味で家電メーカーのほうが(スマートスピーカーを発売するテック大手より)有利なんだと思う」。

また同氏は「冷蔵庫や洗濯機にボイス機能を乗せるメーカーもあるが、大型家電は10年に一度しか買い換えない。ボイス搭載したからといって買い換える人などいない。それより、ミキサーやトースターなど、低価格なキッチン家電にボイス機能を搭載するほうがいい」とも言っている。

デバイスの形は違えど、同社がクラウドAIの覇権を狙っていることが分かる。

ソニー、リクルート、ヤフーも

実は国内だけ見ても、クラウドAIの領域に参戦しようと準備を進めている企業は少なくない。

ソニーは、ボイスで操作するテレビ、ハンズフリーTVを開発中だという。テレビのリモコンってボタンが多いし、録画操作などは本当に面倒。すべての操作がボイスでできるようになれば、喜ぶユーザーは多いことだろう。

ソニーは早くからGoogleと組んで次世代テレビを手がけてきたので、ハンズフリーTVにはGoogleのクラウドAIが搭載されるものと見られる。一方で、今年2月にはソニーエージェントテクノロジーとLINEとが、クラウドAIプラットフォームで提携すると発表している。共同で、スマートプロダクトを提供していくのだという。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

ノボ、アルツハイマー病薬試験は「宝くじ」のようなも

ワールド

林氏が政策公表、物価上昇緩やかにし1%程度の実質賃

ワールド

米民主党議員、環境保護局に排出ガス規制撤廃の中止要

ビジネス

アングル:FRB「完全なギアチェンジ」と市場は見な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 7
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 10
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story