コラム

DataRobot使ってAI予測モデル4000個完成。リクルート社内で進む人工知能ツールの民主化

2017年03月22日(水)18時15分

入社前のデータから入社後の貢献を予測

一般社員が作った予測モデルには、データの専門家には思いもつかないものが幾つも含まれていたという。

例えば就活シーズンには、履歴書とSPIと呼ばれる適正検査の結果が会社に送られてくる。SPIとは多くの企業で採用されている検査で、行動力や意欲、情緒、社会関係性、言語能力などを測定するもの。

こうした入社前のデータと、その人の入社後の活躍ぶりを示すデータの両方をDataRobotに入力したところ、入社前のデータから入社後の活躍ぶりをかなりの確率で予測できるモデルが完成したという。

入社後の活躍ぶりを示すデータとして何を選ぶかが難しいところだが、このモデルを作成した一般社員は、能力給を選んだのだとか。なかなか大胆な発想だ。学習済みのモデルに新規に入社前のデータを入力すると、8割の確率で入社後の給料を言い当てたという。

活躍が見込める人材を入社前に見極めるということは、企業にとって死活問題。

大企業にもなると大量の応募があるので、書類審査の段階で有名大学以外の大学の応募者の書類を廃棄している。表に出てこない情報で噂に過ぎないが、ただ同様の噂を複数の人事担当者から聞いたことがある。そういう慣行が、こっそりと続いているので、学歴重視の悪癖がいまだに社会に残っているのだと思う。大学名に頼らず、入社後に活躍が期待できる人材をより的確に把握、採用することができれば、日本の教育も変わっていくはずだ。

AIはたかがツール、されど脅威のツール

また企業が戦略転換する際にもこの予測モデルは役に立つ。新しい戦略の下で貢献している従業員の入社前データと、近いデータを持つ人材を採用すればいいわけだ。

こうした予測モデルが、リクルートの社内で次々と登場してきている。予測モデル同士を統合したり、新たなデータを求めて戦略を転換する動きにもつながってくることだろう。AIの民主化は、企業や社会を変える原動力となることだろう。

パソコンが普及し始めたとき「パソコンは単なるツールに過ぎない」という意見をよく耳にした。インターネットが普及し始めたときも「ネットは単なるツール」という意見をよく耳にした。パソコンやネットを毛嫌いする人もいた。

そして今、「AIは単なるツール」、「うちの会社には関係ない」という意見をよく耳にする。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ大統領、イラン最高指導者との会談に前向き 

ワールド

EXCLUSIVE-ウクライナ和平案、米と欧州に溝

ビジネス

豊田織機が株式非公開化を検討、創業家が買収提案も=

ワールド

クリミアは「ロシアにとどまる」、トランプ氏が米誌に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 4
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 8
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 9
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story