コラム

AIでビジネスのカンブリア大爆発を起こすLeapMindの野望

2016年11月09日(水)12時25分

<約5.5億年前、突如として多くの生き物が誕生したカンブリア爆発と同じことが、テクノロジーの世界でも起ころうとしている。その起爆剤は、「目」をもったAIだ>
 
 カンブリア大爆発。「目」を持ったことでカンブリア紀に生物の数が爆発的に増えたといわれる現象だ。そして21世紀、AIが「目」を持った。そのおかげで業界の勢力図を塗り替えかねないイノベーションがあちらこちらで起ころうとしている。その影の立役者が、日本のAIベンチャーLeapMindだ。

モノが「目」を持つことの意味

 カンブリア大爆発は、友人でヒューマンセンシングビジネス研究会を主宰する新城健一氏が、よく口にしているたとえだ。確かにセンサー類の高性能化、低価格化が、大きなビジネスチャンスを生んでいることは事実。しかしAI技術の中のディープラーニングと呼ばれる技術も、画像認識の精度を急速に進化させている。皮膚診断など医療の領域でのAIの画像認識精度は、人間のそれを超えたと言われる。

【参考記事】シリコンバレーのリクルートAI研究所はチャットボットを開発していた

 その技術を使ってAIの目をあらゆるモノに搭載しようとしているのが、東京に本社を置く新進気鋭のAIベンチャー、LeapMindだ。

 同社は、画像認識機能を持つプログラムを搭載した安価な小型チップの開発を年内完成をめどに進めている。開発に成功すればあらゆるモノに「目」を持たせることが可能になるという。

 モノに「目」を持たせることで、何ができるようになるのだろうか?

 分かりやすい例として、カメラにLeapMindのAIチップを搭載した場合を考えてみよう。

 LeapMindのAIチップは、被写体の人物が目をつぶっていたり、ピントがずれていたり、という状態を認識できる。そうした写真を自動的に削除するように設定しておけば、ユーザーは被写体にカメラを向け連写ボタンを押し続けるだけ。何千枚も写真を撮っても、うまく写っていない写真や見た感じがそっくりの重複写真をすべて削除してくれる。ベストショット1,2枚だけを残すことが可能になるわけだ。「シャッターチャンス」という言葉は死語になるだろう。

【参考記事】AIの新たな主戦場、チャットボットの破壊力

 今の技術で同様のことをしようとすれば、まずは何千枚もの写真をネット上に転送し、ネット上のAIに画像認識してもらうというプロセスが必要になる。何千枚も転送するので、通信時間や通信コストが膨大なものになってしまう。カメラ自体にAIを搭載することで、こうしたデータ転送の時間と通信容量の無駄を大幅に削減できるわけだ。

 LeapMindのAIチップはそれほど高価ではないので、AIチップを搭載したカメラの価格はそれほど高くはならないはず。値段が変わらないのに、常にベストショットを撮影できるようになれば、消費者はこのカメラに飛びつく可能性がある。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story