コラム

女子高生AI「りんな」が世界を変えると思う理由

2016年08月25日(木)15時44分

 円筒形のAmazon Echoに話かけるだけで、音楽を再生してくれたり、家中の家電をコントロールできるようになるのは確かに便利だ。

 しかしかわいらしいロボットが同じような機能を実装し、さらには雑談に付き合ってくれるようになるとすれば、消費者は雑談型AIを搭載したロボットのほうを使うようになるのではないだろうか。

 以前のコラムでAmazonがスマートホームのハブになる可能性を指摘したが、もしAmazonの覇権に待ったをかけることができるとすれば、それは雑談系AIを搭載した、かわいいロボットになるのではないかと思う。中里氏によると、家電やロボットにりんなの人工知能を搭載するという具体的なプロジェクトはまだ検討中だが、「技術的には当然可能」だとしている。

【参考記事】次のキーテクノロジーは音声、次の覇者はAmazon

 それに商品を購買する場合でも、タスク達成型AIよりも、雑談型AIに勧められた商品のほうが、より売れるのではないだろうか。

 日本マイクロソフトでは、一部企業と組んで、りんなの雑談型AIを搭載したチャットボットの実験を続けているが、中里氏によると、「雑談系AIが、既存顧客との間で感情の共有に近い関係が築けると、顧客とのロイヤリティが深まる。結果、広告とは異なる自然な対話スタイルで、購買への誘導につながる」という仮説が、少しずつ確認され始めているという。実験の結果が公表されれば、企業にとっての雑談型AIの可能性が広く知られるようになるだろう。

 シリコンバレーはタスク達成型のAIやロボットを作り、日本や中国は雑談型のAIやロボットを作る。米国とアジアのすみ分けは、このように進むのではないかと考えている。

 そして、よりユーザーに愛され、その結果として売り上げにもつながるのは、雑談型AIやロボットではないだろうか。

 Microsoft本社から見れば、小冰(シャオアイス)やりんなは、亜流。でもテック業界の歴史を見ても、多くのイノベーションは亜流のプロジェクトから生まれている。Microsoftも、Googleも、Facebookも、Twitterも、そんなところにはビジネスチャンスがない、もしくは残っていないと思われた領域で、台頭してきた。亜流だからこそ、化ければ大化けする可能性があるわけだ。Bill Gates氏もそこに期待して、小冰(シャオアイス)やりんなに注目しているのかもしれない。

2歩先の未来を創る少人数制勉強会TheWave湯川塾主宰
有料オンラインサロン

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story