コラム

次のキーテクノロジーは音声、次の覇者はAmazon

2016年04月06日(水)17時00分

 Apple、Google、Amazonを見ていると、今まさにそういう現象が起こっているように見える。

意外だったNestの不振

 実際には、AppleもGoogleも指を加えて状況を眺めているわけではない。Appleは、iPhone、Apple Watch、AppleTVの音声技術を通じて家庭内の機器をコントロールできるスマートホームの構想を早くから提唱している。しかし、そこまで多くの家電メーカーがApple技術に準拠しているわけではない。

 Googleは、スマートホーム構想のハブにすべくサーモスタットの有力ベンチャーNest社を買収して話題となった。ところが予想を裏切って、Nest社の経営はうまくいっていないもようだ。米BGRニュースの「It's hard to overstate how much of a disaster Nest has been for Google(GoogleにとってNestが大変なお荷物になっている)」という記事によると、Nest社の社長と、元従業員らが、ソーシャルメディア上で罵倒し合っているのだとか。これまでに500人近くの従業員が同社を退社したという話もあるようだ。こうした内紛が続くようでは、次のパラダイムの覇者には到底なれそうもない。

 なのでGoogleはNestに頼らず、自らAmazon Echoに対抗する製品の開発を始めたといううわさもある。しかしこれから開発するのでは、快進撃を続けるEchoの勢いを止めることは難しいかもしれない。

 毎年2月の第一日曜日に開催されるアメリカンフットボールの祭典、スーパーボウルは、年間を通じて最高の視聴率を記録するため、米国の大手企業が多額の広告予算をつぎ込んで、イチオシの主力商品のコマーシャルを流すことで有名だ。Amazonは今年のスーパーボウルのコマーシャルとして、Echoのコマーシャルを放映した。つまり、Amazonは本気ということだ。Echoにかなりのリソースを今後、つぎ込んでくるだろう。

「スマートホームは家が広いアメリカに限った話。日本にはあまり関係ない」という意見がある。しかし、壁のスイッチを押すより早く「Echo、電気つけて」の一言で部屋の証明をつけたり、ステレオのスイッチを押すより早く「Echo、いつもの音楽流して」の一言で音楽を再生できるようになる。その利便性は、日本のユーザーの間でも評価されるのではないだろうか。

 今はまだ生産が需要に追いついていない状態。Echoの廉価版であるEcho Dotを今、注文すると、手元に届くのは8月くらいになるといわれている。この急速な需要の伸びに合わせた量産体制を構築するのが、Amazonの当面の目標になるだろう。しかし量産体制が整えば、日本などの市場に攻め入ってくるのは間違いない。黒船Echoは日本の家電業界にどのような影響を与えることになるのだろうか。家電業界の勢力図はどう変化するのだろうか。

【著者からのお知らせ】少人数制勉強会TheWave湯川塾33期「社会のあらゆる側面から未来を読む」、募集を始めました

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story