コラム

ソーシャルロボット「百花繚乱」時代に

2015年08月28日(金)17時22分

 同社広報に問い合わせてみると「りんな」は「あくまでテキストでの対話を目指していて音声エージェントやロボット等への応用の予定はない」という返事が返ってきた。発表文とは少しトーンが違う。ただ当面公表できる予定がないというだけで、発表文にあるようにソーシャルロボットへの応用を最終的に目指していることは間違いないだろう。

 つまり人工知能の技術を持たない会社でも、AmazonやMicrosoftなどの人工知能を搭載することでソーシャルロボットを開発できる状況になりつつあるということだ。

特定領域に特化したロボットに期待

 Washington Post紙の記事は、なんでもできることがソーシャルロボットの価値としているが、僕は特定の領域に特化したほうがいいのではないかと思っている。というのは人工知能が進化し始めたといはいえ、あらゆる人間のあらゆる会話の相手ができるほど、今日の人工知能は賢くない。そこまで賢くなるまで、あと30年はかかるという話もある。

 なのでなんでもできるというソーシャルロボットより、特定の層のユーザーに向けたほうがいいのではないかと思う。高齢者や幼児の話し相手ならば語彙数や話題も限定的なので、今日の人工知能であっても十分機能するのではないかと思う。

 英語学習を目的としたソーシャルロボットなら、簡単な英会話の練習相手にはうってつけだろう。そしてユーザーが増え、データが増えて、対話の内容がほぼ完璧になれば、現状の英語教材をはるかに超える教材になる可能性がある。英語学習産業の勢力図があっという間に塗り替わる可能性があるわけだ。

 ユーザーが増えれば増えるほど、データが増え、データが増えれば増えるほど、人工知能は賢くなる。正のスパイラルだ。正のスパイラルは先手必勝。なので他社に先んじようと、これから多くの企業がいろいろな領域にソーシャルロボットを投入してくるのではないかと思う。

一人一台、プライスレスになる

 可能性はそれだけはない。ロボット開発を長年手がけてきたヴイストン株式会社の大和信夫氏は、ロボットと生活することで人はロボットに愛着を持つようになり、さらに人工知能が進化すれば、ロボットが親友もしくは親友を超えるベレルの存在になるという。「間違いないです。断言できます。ソーシャルロボットは人間にとってプライスレスな存在になる。そうなればビジネスチャンスは無限」「ビジネスチャンスがあらゆる産業でいきなり出現する、という感じですね」と語っている。


[執筆者より]
2歩先を読む少人数制勉強会TheWave湯川塾第30期のテーマは「ソーシャルロボットはどの領域を狙うのか」です。塾生募集は9/11から。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権の対中AI半導体輸出規制緩和を禁止、超

ビジネス

具体的な金融政策運営「日銀にお任せしている」=片山

ビジネス

IMF専務理事、来週訪中 年次評価に関して協議

ワールド

ホンジュラス大統領選、トランプ氏支持候補優勢で対立
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 10
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story