コラム

北極海支配まで狙う中国に、日本とロシアは雪解けで対抗せよ

2018年06月02日(土)12時00分

日本におねだり上手なロシアのザギトワ Damir Sagolj-REUTERS

<北方領土で日ロが対立する隙を狙って「一帯一路」は極北に――日ロの苦い歴史の救世主は秋田犬とザギトワなのか>

ロシアの首都モスクワで5月26日に秋田犬贈呈式が開かれ、安倍晋三首相が出席することとなった。贈呈を受ける主役は大の犬好きで知られるプーチン大統領......ではなく16歳の少女。フィギュアスケート選手アリーナ・ザギトワだ。

事の発端はザギトワが2月の平昌冬季五輪で金メダルを獲得した際の「おねだり」。多くの日本人が好意的に反応しただけでなく、首相までが式典に臨む。これは日本がロシアを特別な大国として見ていることの表れだろう。

今年は「日本におけるロシア年」にして、「ロシアにおける日本年」。相互での開催が16年の日ロ首脳会談で決まって以来、両国でさまざまな文化イベントが予定されている。今のところ大きな盛り上がりが見られないのは、両国がたどってきた歴史に理由がありそうだ。

日本は北の隣国ロシアを苦手としている。その最大の原因として、第二次大戦末期の45年8月にソ連が一方的に日ソ中立条約を破棄したことが挙げられる。モンゴル人民共和国と連合軍を結成して満州と内モンゴルになだれ込み、約60万人もの日本軍捕虜と民間人をシベリアなどに連行。過酷な環境の下で長期間にわたって抑留した。

無視された提督の進言

北方領土を奪ったこともロシアに対する印象をすこぶる悪化させた。第二次大戦の敗因は多岐にわたるはずだが、日本では今なおソ連の参戦を「不義の一撃」と捉える見方が強い。このことが日ロ関係改善に対する阻害要因の1つとなっている。

同様な苦い記憶はロシア側にもある。19世紀半ば、ロシアはアメリカのペリー提督より少し遅れてプチャーチン提督を幕末の日本に派遣した。アメリカと同様な外交的権利を求めていたロシア艦は、下田で不運にも地震による津波を受け大破。翌年に日露和親条約を締結したが、ペリーがもぎ取った「果実」ほどおいしい内容ではなかった。

日本人大工が造成した木製の船でロシアに戻ったプチャーチンは、その対日交渉の苦労から「サムライとは相手の尊厳を守って慎重に交渉すべき」との意見を本国に述べた。だがその意見が両国関係に生かされることがないまま、20世紀初頭に日露戦争に突入。満州でロシア陸軍は敗北を喫し、ロシアの大艦隊が日本海で全滅した。

ロシアがやっと一矢を報いることができたのが45年の満蒙作戦だろう。今なおロシアが北方領土を返還しないのは19世紀後半以降、日本によって太平洋への出口を阻まれてきたからだ。

プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・寄り付き=ダウ約300ドル安・ナスダ

ビジネス

米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極

ビジネス

FRBとECB利下げは今年3回、GDP下振れ ゴー

ワールド

ルペン氏に有罪判決、被選挙権停止で次期大統領選出馬
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    「炊き出し」現場ルポ 集まったのはホームレス、生…
  • 5
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story