コラム

フランス大統領選挙―ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く

2017年04月29日(土)14時00分

これに対し、ルペン候補は、移民規制の強化やフランス人優先を訴えるという点で強い右派性をもつことは明らかだが、低所得者減税や社会保障給付の引き上げなど弱者保護(ただしフランス人に限定)を掲げていることから、部分的には左派性も有する。この矛盾した政策が、ルペン候補の左右の対立軸における位置づけを曖昧にしているが、一方で、かつての左派支持層の一部がルペン候補に引き寄せられる要因ともなっている。

マクロン候補は、中道左派からの支持に支えられているが、政策的には労使双方に配慮した社会政策や税制改正を掲げており、サプライサイドを重視した、いわば社会自由主義的な志向性が経済界からも評価されるなど、左右の対立軸でみた場合、どちらとも判然としないところがある。

いずれも左右という対立軸で見れば、お互いに相手側に食い込んだ部分があり、両者の間の区分を曖昧にしている。

ナショナリズムの争点化

そこで、もう一つ、政治的・経済的な制度(国家・政府・経済システム)の面での考え方の違いに着目して、分類してみるとどうなるか。この面では、グローバル化への対応を巡って二つの極に分かれる。

yamada2.jpg

一つの極は、グローバル化に対応するにあたり、強い主権をもった国民国家が国民を守るべきだと考える人々であり、保護主義、国内優先、自国民優先の立場をとる。ボーダーレスの時代に背を向け、内向きで閉ざされたフランスを志向する。EUに対しては当然否定的だ。これをナショナリズムという言葉で括っておこう。

もう一方の極は逆に、国家の枠にとどまらず、地域や世界に開かれたフランスを築いていこうとする人々であり、新自由主義的立場から小さな政府を志向し、自由貿易や規制緩和、競争を重視する。EUに対しては肯定的な姿勢だ。これをグローバリズムという言葉で括っておこう。

この両極の対立軸で見ると、前者のナショナリズム側には、EUやユーロからの離脱や自国優先を掲げるルペン候補が入るし、左派のメランション候補も同じくEUからの離脱を主張し、自由貿易協定反対や、NATO脱退などを訴えていることから、こちら側に位置づけることができる。逆に、EU統合推進派のマクロン候補やフィヨン候補は、グローバリズムの側に位置づけることができる。

ここでは、ルペンとマクロンとの違い、争点は明確だ。ルペンは「野蛮なグローバリズム」を糾弾し、「賢明な保護主義」を主張する。マクロンは、偏狭なナショナリズムは真の愛国主義ではないとして、「自閉症」を戒め、「開放」を主張する。ルペンが反EU、マクロンが親EUであることは言うまでもない。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学名誉教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より2019年まで東京外国語大学教授。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=S&P・ナスダックほぼ変わらず、トラ

ワールド

トランプ氏、ニューズ・コープやWSJ記者らを提訴 

ビジネス

IMF、世界経済見通し下振れリスク優勢 貿易摩擦が

ビジネス

NY外為市場=ドル対ユーロで軟調、円は参院選が重し
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは「ゆったり系」がトレンドに
  • 3
    「想像を絶する」現場から救出された164匹のシュナウザーたち
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 6
    「二次制裁」措置により「ロシアと取引継続なら大打…
  • 7
    「どの面下げて...?」ディズニーランドで遊ぶバンス…
  • 8
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 9
    「異常な出生率...」先進国なのになぜ? イスラエル…
  • 10
    アフリカ出身のフランス人歌手「アヤ・ナカムラ」が…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 3
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 4
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 8
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 9
    ネグレクトされ再び施設へ戻された14歳のチワワ、最…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 9
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story