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フランスに「極右」の大統領が誕生する日
一方もし、急進派の候補が第1回投票で2位以内に入ったとしても、第2回投票では、急進的な勢力を忌避する有権者が左右の立場を乗り越え一致団結して、決選投票に残った唯一の相手方候補に投票することを選択するだろう。その結果として、急進派の大統領の誕生という事態は阻止される。実際、2002年の大統領選挙第1回投票で2位につけたジャンマリ・ルペンが、第2回投票において大差でシラクに負け排除されたのは、この仕組みが機能したからだ。
今回の大統領選挙でも、この仕組みは生きている。かつて共産党に対する防波堤の役割を果たした選挙制度が、今や国民戦線に対する防波堤の役割を果たしているというのは、歴史の皮肉というしかない。
マリーヌ・ルペンがこの防波堤を乗り越え大統領になるためには、第1回投票で2位以内に入り、第2回投票で過半数の票を獲得することが必要だ。
直近の選挙や最近の世論調査では、ルペンの支持率は4分の1を超えている。2月下旬の世論調査(Kantar Sofres-One Point)でも27%で、中道右派のフィヨンや中道左派のマクロンを抑え、1位の座を占めている。3月初旬の別の世論調査(Harris Interactive)では25%で、マクロン(26%)の後塵を拝したが、いずれにせよ、第2回投票に進むことはほぼ確実である。
問題はその第2回の決選投票で、そこに残るもう一人がだれになるかにもよるが、フィヨンの場合はフィヨン55%に対しルペン45%、マクロンの場合はマクロン58%に対しルペン42%(Kantar Sofres-One Point)、あるいは、フィヨンの場合はフィヨン59%に対しルペン41%、マクロンの場合はマクロン65%に対しルペン35%(Harris Interactive)というのが同じ世論調査の示すところである。いずれもルペンの負けということで、かろうじて「防波堤」が機能することになる。
しかし、不安な要素も拭い去れない。それは、投票率である。第1回投票で自分が投票した候補が敗退した場合、第2回投票を棄権するか白票を投じるという、有権者の白け現象が起き、投票率が大きく下がれば、大衆の不平・不満票を中心に固い支持基盤を持つルペン候補が相対的に有利になるという事態が起こり得る。これまでの選挙でも、投票率が低いときには国民戦線の得票率が伸びるという傾向が明らかになっている。
大統領選挙第2回投票でのこれまでの最低投票率は1969年の68.9%である。この時は、右派同士の決選投票になって白けた左派の支持層の多くが棄権したことで、投票率が下がった。
今回は、中道右派のフィヨンが、支持母体である共和派の中で、自身のスキャンダルを巡って党内の亀裂を抱え、中道左派のマクロンが、袂を分かった社会党との関係で支持者の奪い合いをしているなど、それぞれの支持基盤を固めきれないという弱みを抱えている。こうした状況のなかで、投票率がこれまでの大統領選挙以上に大きく下がるようなことになれば、漁夫の利を得るかたちで、ルペンが大統領になる可能性は否定できない。
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