イタリア事情斜め読み
対ロシア制裁におけるイタリアが被るダメージ
| イタリアのガス高騰、ロシア産天然ガスへの依存度
イタリアのマリオ・ドラギ首相は、ロシアがウクライナに侵略した後、ロシアに対する制裁を決定する際、ロシア産ガスの輸入量についてイタリアの脆弱性を認め、ここ十数年エネルギー供給をロシアに依存していたと付け加えた。
イタリアは、天然ガスパイプライン「サウス・ストリーム」で、トルコ経由のパイプラインでロシアから輸入している。イタリアのENIというエネルギー企業とロシアが共同で設計したプロジェクトでできたものだ。
残りは、少し割高な液化天然ガス(LNG)をナイジェリアなどから輸入している。
ヨーロッパ諸国の平均では輸入している天然ガスの41.1%、石油の27%はロシア産。
この供給が制約されれば、エネルギー価格などが高騰し経済的な苦境に追い込まれるになる。
暖房・燃料代の上昇から、企業の輸送・電力価格も上がった。そういったエネルギー価格の高騰は直接、食品価格も上昇している。家計は大打撃である。
今日のイタリアのガスのSmc(標準立方メートル)の価格は€0.879436 / Smc
一方、自由市場では、ガス原料の価格は各サプライヤーによって個別に定義されており、サービスもオプションの一つとして製品に含まれ、オプション内容の組み合わせに基づいているため価格も様々である。
実際には、イタリアはその年の間に測定された平均気温に基づくイタリアの自治体の分類(6つのゾーンに分割)があり、それぞれについて、ガスの総価格に影響を与える高度気候調整係数(係数C)が定義されている。
大統領令1993年8月26日のDPRn.412は、省エネを目的とした建物の熱システムに関する規制であり、イタリアの気候区分を導入されている。
分類基準として「度日」、つまり従来は20°Cに設定されていた周囲温度との正の差のみの合計を使用して、6つの異なる気候帯を識別するAからFまでゾーンで表している。毎日の平均屋外気温:
Aゾーン:度日数が600日を超えない市町村。暖房システムのスイッチを入れることは、12月1日から3月15日まで1日6時間許可。
Bゾーン:度日数が600を超え900以下の市町村。暖房システムのスイッチを入れることは、12月1日から3月31日まで1日8時間許可。
Cゾーン:度日数が900日を超え、1,400日を超えない市町村。暖房システムのスイッチを入れることは、11月15日から3月31日まで1日10時間許可。
Dゾーン:度日数が1,400を超え2,100以下の市町村。暖房システムのスイッチを入れることは、11月1日から4月15日まで1日12時間許可。
Eゾーン:度日数が2,100を超え、3,000を超えない市町村。暖房システムのスイッチを入れることは、10月15日から4月15日まで1日14時間許可。
Fゾーン:度日数が3、000日を超える市町村。システムは一年中いつでも電源を入れることができるが、午後11時30分から午前5時の間は電源を入れたままにすることはできない。
私の住む地域は、Eゾーンであるので、今年は暖房を10月15日から点火して良いことになっていて、4月15日まで1日14時間、暖房をつけて良いと許可されている。
家のガス代請求書もきた。479,94€(約62,800円)あともう1通、ガス代だけでこれまで1,185.40€(約155,000円)事務所の分もくる予定なので、やっぱり18万円は超える。電気代25%UPの請求書がくる。光熱費、予想より恐ろしい値上がりしている。毎月じゃない。イタリアは一般的に2ヶ月に1度請求される。 https://t.co/brYqHPc9NK pic.twitter.com/FfijHHkE3r
-- ヴィズマーラ恵子 イタリア在住 (@vismoglie) February 21, 2022
イタリア政府は、経済財務大臣法令(Sostegni Ter Decree)で、一応は16億ユーロを予算に割り当てた2022年の手形ボーナスという生活が困難な家族に対する救済を規定している。
2022年法案ボーナス(社会的ボーナス)で援助をすると発表したが、それを受給できるのは4つのカテゴリー条件に該当する人のみとなっている。
・ISEE(年収証明)が年間8,265ユーロ(約106万8千円)未満の世帯。
・年間20,000ユーロのISEE(年収証明) で少なくとも4人の子供を持つ大家族。
・イタリア市民権所得または市民権年金の受給者。
・電気医療機器を使用する不安定な健康状態の人。
イタリアで起業し、そこまで生活が困窮していない非欧州国出身の外国人の私でも年間8,265ユーロ未満ということはなく、なんなら政府の決めた貧困家庭の最低年収ラインの収入額以上の税金を国に納めている。今のことろ、普通に生活はできていて、4つの条件のどれにも当てはまらない。
しかし、2ヶ月に1度ガス代18万円以上が請求され支払い続けていかなければいけないのはかなり痛い。支払えない家庭も出てくるのではないかと人様のご家庭のことを心配している余裕もなくなってきた。
私はこういった政府の社会的ボーナスを受け取れる条件に全く該当しないので一切援助金は無いのだ。
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こうやって家でモカ使ってカフェ作るのもガス代気になって悠長に飲んでいられない。バールでカフェエスプレッソ(1.5ユーロ)をした方が安くつくんじゃないかと思えてきた。冬だから長時間かけて煮込む定番料理も20分以上かかるオーブン使う料理も高額請求に怯えて作れない。 pic.twitter.com/uSH6qChUOJ
-- ヴィズマーラ恵子 イタリア在住 (@vismoglie) February 21, 2022
| ヨーロッパ諸国のロシア依存度
ロシアにエネルギー依存をしているヨーロッパの国はイタリアだけではない。
多くのヨーロッパ諸国は、ロシアがシビルスキーガスの販売を停止したり、ロシアへの全面的な禁輸制裁がなされた場合には、かなりのショックを受けるというリスクがある。
ヨーロッパ諸国がロシアから輸入したガスの割合を計算する機関(Statista.com Web)の2020年のデータによると、EUの主要経済国の中でドイツはロシアからガスの約半分を輸入しているが、フランスはモスクワから供給の4分の1しか受け取っていない。
フランスのガスの最大の供給源はノルウェーで、35%を供給している。
イギリスはガス供給の半分をイギリス国内の供給源から引き出しており、残りは主にノルウェーとカタールから輸入している。
スペインもロシアの主要取引国ではない。スペインの主要な貿易相手国はアルジェリアと米国である。
このように、ヨーロッパ諸国でも各国の状況はかなり異なるのだが、イタリアは、シベリアのメタンに46%依存しており、ロシア産ガスの販売が最終的に停止されるならば、最も影響を受ける国であると言える。
一部の小さなヨーロッパ諸国、特に北マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、モルドバはロシアのガスのみに依存している。
最新の入手可能なデータによると、フィンランドとラトビアは、ロシアから90%以上、そして、セルビアから89%以上ガスを購入している。
オランダの依存度は非常に低く、そのガスのわずか11%がロシアからのものである。
ルーマニアは10%。
アイルランドとウクライナはモスクワから1立方メートルのガスを購入していないが、ウクライナ政府はクリミア半島をめぐるロシアとの武力紛争後、2015年以降からはEUから天然ガスを購入しているという。
| イタリアとロシアの間の貿易
貿易額ではロシアはイタリアより俄然有利。
外務省の経済観測所(infoMercatiEsteri)の最新公開された最新データによると、2021年1月から11月の間に、イタリアからロシアへの輸出量とロシアからイタリアへの輸出量(およびイタリアが輸入する量)のバランスはロシアに圧倒的に有利で、もちろん、その輸出品目の主は天然ガスである。
ロシアから43%の原材料のが入ってきており、紛争は供給を危険にさらし価格が上昇したりする可能性がある。
その危機に陥れるセクターはどこなのか、またどこから始まっていくのだろうか。
イタリアの報道によると、その影響はイタリアの食卓に変化が起き危うくなっていくという。
最大の懸念が集中しているのは穀物、特に小麦である。
パスタ、パン、ピッツァなど典型的なイタリア料理の主食とも言える食品の価格が高騰するだろうというニュースがあった。
小麦とトウモロコシ、大豆の値上げ
⭕️小麦:ロシアは世界最大輸出国
米国農務省(USDA)の推定によると、ロシアは世界最大の小麦輸出国で、年間約8500万トンを集め、そのほぼ半分を輸出しているという。
過去10年間で、輸出は2倍以上になり、穀物の世界貿易で最大のプレーヤーがロシアである。
世界第4位はウクライナ。
ロシアとウクライナの両国は世界の穀物貿易の29%、トウモロコシの輸出のほぼ20%、ひまわり油の輸出の80%を担っている。
市場を心配しているのは、両国間の緊張がロシアからの出荷を遅らせ、黒海の港からのウクライナの出荷を阻止し、世界市場での入手可能性の崩壊と一次産品のインフレのリスクをもたらす可能性があるという事実である。
イタリアは軟質小麦の必要量の64%をロシアから輸入している。
イタリアの農業生産者団体コルディレッティ(Coldiretti)のデータによると、パンとビスケットの製造に用いる軟質小麦はウクライナからイタリアに到着し、2021年の最初の10か月で国の総輸入量の5%に相当する10万7千トンという量であったという。
この量の2倍の量が、ロシアから輸入されている。ロシア産小麦は44,000トンだ。
⭕️トウモロコシ:ウクライナのお得意様である輸出先がイタリア
動物の餌、ペットフードに使われている原材料のトウモロコシもまたウクライナから輸入されている。
小麦の懸念はトウモロコシにも当てはまり、ウクライナはトウモロコシ輸出業者の中で世界4番目にランキングされている。
イタリアの農業生産者団体コルディレッティの分析によると、イタリアは家畜に与える餌の主要材料であるトウモロコシの53%をロシアから輸入している。イタリアが輸入したトウモロコシの20%をウクライナ産が占めており、ウクライナにとってはハンガリーに次ぐ供給国として、イタリアが2番目のお得意様貿易国である。
⭕️大豆
トウモロコシの価格の上昇は大豆価格にも影響を及ぼすとコルディレッティは説明している。
どちらも同じ耕作地に関係しているからである。
ラテンアメリカの干ばつによる影響は大豆の供給が急速に減少し、価格の上昇につながった例もある。
トウモロコシや大豆油を含む多くのパッケージ製品の価格に影響を及ぼすことだろう。
ウクライナとロシアの間の危機が2月21日(月曜日)に始まった週の初め、既に転換点に達した。
2月22日(火曜日)以来穀物価格は高騰し、毎週の上昇は約7パーセント。
既にパンデミックにより食料費は引き上げされていたが、さらに追い討ちがかかった。
昨年、小麦と大豆は2012年以来の最高価格に達し、トウモロコシは2013年以来の最高価格に上昇した。
2月25日(金曜日)にイタリア最大農業事業のConsorzi Agrari d'Italia(CAI)が、ボローニャ商品取引所の調査データについて
"この戦争の影響がイタリアで感じられ始めており、トウモロコシ、軟質小麦、大豆の価格も上昇している。"
とコメントした。
イタリア国内取引、農業原料における交渉の基準価格は、
パン、小麦粉、ビスケットの生産に使用された軟質小麦は、タンパク質の価値に応じて、1トンあたり4〜8ユーロ高く、+ 2.5%値上げ。
飼料の生産に不可欠であるトウモロコシも値上げ増加、1トンあたり10ユーロ多く見積もられ+ 3.75%値上げ。
大豆も1トンあたり10ユーロで+ 1.5%増加した。
大麦も1トンあたり7ユーロと6ユーロで+ 2.4%の増加。
⭕️植物油
植物油セクター全体も緊張状態にあるという。実際、ロシアとウクライナは世界の2つの主要なひまわり油生産国であり、ウクライナだけで世界のひまわり油輸出のほぼ50%を占めている。
⭕️コカ・コーラ、金属、石油製品
イタリアで売られているコカ・コーラはほぼロシアから輸入している。これも値上がりする予定。
2020年にイタリアはロシアから10億ユーロ以上分を輸入したものの一つに、冶金学的性質の金属もある。
最大の生産国は米国、ベネズエラ、カナダであるため、他の国の金属も今度は調達する可能性がある。
⭕️化学薬品と紙、セメント
鉱山や採石場からの製品もロシアに57億ユーロ以上を支払い輸入している。イタリアのセメント産業でもとりわけ使用されている原材料である。
セメントの焼成工程で使う石炭もロシアから輸入していたので、これも値上がりする。
また、イタリアのもう1つの重要な輸入品目には、ロシアとウクライナの両方から化学製品に関するものが輸入されている。それがパルプおよび紙製品で、イタリアは、2020年に1億ユーロ以上をロシアに支払い輸入している。
イタリアはロシアとの貿易バランスは常にマイナスである。
イタリアは、将来的には、ロシアに頼らず、再生可能エネルギーへの移行と石油・ガス生産を段階的に縮小させる。再生可能エネルギーと低炭素事業を構築する次世代エネルギーとして注目が集まる水素。"グリーン水素エネルギー"「水素国家戦略」を2021年5月に発表している。
著者プロフィール
- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
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