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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

サマータイム廃止でイタリアは最後の夏時間

iStock-cyano66

| イタリアではおそらく最後になるサマータイム

夏時間は本当にそれほど利点があるのか?

イタリアでは、おそらく今年が最後となる夏時間に戻す時期がやってきた。
一般的には、夏の日照時間に仕事をし、(外が明るくても夜時刻)なので夕方以降に夜の余暇時間を長く持つことでゆとりある生活ができる、経済活性化や夜間電力の消費量が減り省エネになるなどと言われている。

イタリアでは、第一次世界大戦中の省エネ対策として、1916年に最初に導入された。その後、数十年サマータイムを廃止したり再採用したりを繰り返し、1960年代からは継続してサマータイムを導入していた。
しかし、1966年から1980年代まではその期間を縮め、5月から9月までをサマータイム(夏時間)として採用していた事もあった。

1996年以来、欧州連合の勧告により法定期間は3月末から10月末までとなった。

イタリアでは4月の日の出時間は午前5時30分頃で、6月の日の出時刻は朝5時前である。イタリアの最東端の地域では、早ければ午前4時には陽が登る。問題は、イタリアの大部分の人々は6時に起床し、始業時間が7時に始まるということである。

テルナ(イタリアの送電網を管理している会社)は、時計の針が1時間進むと、イタリアでは今後7か月でエネルギーシステムにプラスの影響があり得る。そして電気代も安くなるという。

2004年から2020年にかけて、この16年間で夏時間によるイタリアの電力消費量は4億kWh減少し、約100億キロワットの節約ができたという。これは、約15,000世帯の平均年間電力消費量と同じである。

経済的には10億ドルと7億2000万ユーロの節約につながったことをテルナは発見した。
春夏の最大の省エネ月は4月と10月で、まさに事業活動が本格化している時期である。節電ポイントとして明白になったのは、夕方の電気使用量であるという。夏の間、電球のスイッチを入れる際の「遅延」が絶大な省エネ効果になっているというのがテルナの研究結果である。
夏時間で1時間進めば、作業活動を終了して退社できる時は、まだ外は明るい。
就業時間が明るい内であれば、人工照明の使用は必要がなく、人感センサーは反応せず点灯回数も少なくなるというわけである。

テルナのウェブサイトのホームページから、イタリアの電力消費の傾向を負荷曲線で表したものがリアルタイムで見られる。

環境的観点からもとてもよいという調査結果もある。
2020年には、夏時間のメリットにより、大気中へのCO2排出量が20万5千トン減少し、経済的には約6,600万ユーロに相当する節約になったという。
2020年に関しては、COVIDの影響によりロックダウンで緊急業務以外の業務の停止となり、全国的に生活必需品以外を扱う小売店の営業は停止を余儀なくされた。こういったエネルギー消費の全体的な削減が強く影響されたことも考慮しなければならない。

今年2021年は、エネルギー需要の部分的な回復を期待しており、 パンデミックに関連する不確実性の状況は残っているものの電気エネルギー消費量からの観点、環境的観点、経済的利益の価値からの観点では前年度のものと類似しているだろうという調査結果をテルナは発表している。

これが夏時間の利点であり、今年は3月28日日曜日の午前2時から10月31日までがサマータイムである。

開始:2021年03月28日(日)1:00 am /UTC → 2:00 am /UTC
終了:2021年10月31日(日)2:00 am /UTC → 1:00 am /UTC


| 実際にサマータイムを実体験しているイタリア在住の私

今日現在、2021年3月22日(日曜日)は、まだサマータイムではないので、日本との時差は8時間。
来週の日曜日以降から日本との時差は7時間になる。日本時刻から7を引いたら、それがイタリア時刻である。

生体リズムもすっかり冬時間で、生活習慣も固定してきているが、iPhoneは夜の内に自動的にこのサマータイムに切り替えてくれているので、来週からは朝の目覚ましアラームは1時間早く鳴るようになるのである。

これがどういう事かというと、昨日ならば朝7時でレム催眠の浅い眠りから醒めた頃に気持ちよく起床するのが、サマータイムになると、まだ夢ではクライマックスに差し掛かるあたりなのに朝6時に起こされる中途半端で嫌な目覚めになるという日常が1週間ほど続くという事である。
また、私の愛犬に関して言うと、外の明るさは体感ではまだ昼下がりの午後3時くらいなのに、動物の腹時計はスイス時計のように精確であり、「お腹空いた、もう晩ご飯の時間だよ」とペットのワンコ達が教えてくれて、もう18時半だといつも驚かされる。夕方に急にバタバタしなければいけない感じも毎年恒例である。

たかが1時間の違いだが、この微妙な生活リズムの崩れがストレスである事には間違いない。
睡眠不足だと自覚症状はあまり無いにしても、実際は睡眠不足に陥っており、スッキリしない寝起きが1週間ほど続く。
胃腸の調整も同時に大変になってくる。

そして、10月の最終日曜日に標準時間(冬時間)へ、1時間戻すという仕組みだ。
手巻きの壁時計などの時間を冬時間にする時は、1時間進めるのか、1時間巻き戻すのか、いつもどっちだったかを一瞬だけ考えるのも毎年恒例であった。
手っ取り早く、自動的に時間を調整してくれているiPhoneを見てサマータイムを終了の冬時間を確認するのが一番良い。

「秋の夜長、ラッキー」と頭にはインプットし、10月秋の冬時間には1時間延長で寝ていられるからお得だという認識を植え込んでいる。10月だとミラノはもう秋を通り越して冬の寒さである。朝はかなり冷え込むので、携帯で時刻を確認して「あれ、まだ6時?もう1時間寝られる。ラッキー」という感じで、サマータイムの終わりを感じていくのが流れであった。

一方、ワンコ達は、急にサマータイムが終わり冬時間だと言われても毎日19時の晩ご飯を1時間お預けになるので、お腹が空いてたまらない。

動物は、このように「概日リズム」はサマータイムであろうがなんであろうが崩れることがない。EU人間達の都合によって体内時計を壊してしまうのは、残酷で忍びない。
徐々に夏時間から冬時間に変わった時は時間に慣らすまでに1ヶ月はかかる。
動物の気持ちを代弁するならば、「サマータイムは速攻廃止してくれ」に違いない。


個人的には、夏時間のまま(日本との時差は7時間差)で良いのではないかと思っている。
それは、日本とイタリアとの間でビジネス展開をしているものとして、何らかの問題が発生した場合でも日本の営業時間内になんとか解決できたことも多々あった。日本との時差が無ければ無い程、ほぼ状況把握に温度差なくリアルタイムに近いタイミングで問題を把握することができたからである。都合が良いし助かるからという理由では時差が7時間が良い。

日本との時差が8時間差である時は、それはそれでさほどの問題はなかった。イタリアがお昼12時のランチ時に、日本は20時で晩ご飯時という具合で、生活リズムが昼夜逆転している感じになるが、食事時が重なってビデオチャットなどで日本の家族と繋ぐ場合は調子が良かった。


| EUの夏時間の分割

ヨーロッパでの論争は停滞していた。2018年7月4日から8月16日に開催されたオンライン相談で、460万人のヨーロッパの市民からアンケートを取り、回答者の85%が6カ月毎の時間変化を廃止に賛成であると示した。
賛成の内84%がサマータイム廃止に賛成しているというが、「欧州で統一時間にするなら廃止に賛成」である。
イタリアでは66%が賛成で、ヨーロッパの84%より大幅に下回る。廃止に賛成の理由の43%が「健康への悪影響」を挙げている。

ユンケル欧州委員長がサマータイム廃止の法案提出に至った大きな理由のひとつが「効果なし」との意見も発表している。

もちろん最終決定は欧州理事会による確固たるものとなる。

2018年、欧州議会は、さまざまな加盟国が年に2回、1時間から別の時間に移行する義務を廃止することを規定する決議を承認した。
そして、2019年3月26日、欧州議会は「サマータイム制度」を2021年に廃止する法案を可決した。
その後、加盟国の代表との話し合いで、最終的な合意がなされる。
通年適用する標準時間を「夏時間」と「冬時間」のいずれかにするか、足並みを揃える方針である。しかし、夏時間のままにするのか、現在の冬時間のままにするのか、ヨーロッパでは各国がバラバラで夏時間を選ぶ国、冬時間を選ぶ国で、タイムゾーンも分裂しているという。

大陸続きの欧州隣国で、国ごとに時間が違っては実にややこしい。国を跨いで仕事や旅行で移動する人は現地時間を常に気にしなければいけないのか、飛行機や列車の時刻表はどのように見たらよいのか、など大混乱が生じるであろう。

イタリアは2021年、サマータイム時間への変更を確認したが、他の27の加盟国と同様に、今年の4月までに夏時間または冬時間を永久に廃止することを決定する可能性がある。

2019年11月、コンテ政権でイタリアはサマータイム廃止について決定までに2年間の猶予を設け、サマータイム導入を維持することを選択した。

フランスなどの他の国では、複数の変更を行わずに1回(夏)に切り替えることを既に選択している。いくつかのデータによると、時間の変化は莫大な経済的節約を伴うわけではないが、人々の生活習慣に影響を与えると出ている。

| 一方、日本ではサマータイム導入を検討しようと逆行

実は日本は、1948 年から1951年にサマータイムが実施された歴史がある。残業量増加など労働条件の悪化により 1952年以降は廃止された。その後、2004年から2006年に日本でも緯度が高い北海道で実験的にサマータイムを導入した実践例がある。北海道の企業・行政機関・団体が参加し、サマータイムが行われたが、実際には規模の大きな繰り上げ出勤となっただけで廃止している。東日本大震災の直後 に「省エネ」を目的とするサマータイムの導入やオリンピックを控えた東京を中心に屋外の陸上競技で選手の健康を守るためにサマータイムを導入するべきでは?など、一部政府関係者やマスコミにより唱えられていた。


一般社団法人 日本睡眠学会 サマータイム制度に関する特別委員会は、サマータイムが健康に与える影響に焦点を絞って判り易く解説している。
「サマータイム制度と睡眠」について

『欧米に比べて国民の短睡眠化・夜型化が進行している日本ではサマータ イム制度導入による健康への影響が大きいこと、電気機器等の改良によりサマータイ ム制度の省エネ効果はほとんど期待できず、むしろ一般家庭では増エネになる可能性 があることなどから、私たちは日本でのサマータイムは利益よりも不利益が多いと結論しました。』

というまとめを発表している。

「混乱に拍車をかける」、あるいは「初期の設備投資に1兆円の資金が必要である」との理由から、導入は見送られたという。
世界はサマータイムを廃止に向け調整をしているのに、日本はあえて逆行しようとしている。日本企業の7割がサマータイム導入に反対しているという。
日本を含むアジアやアフリカ諸国は、赤道に近い低緯度の地域なため、夏と冬で日照時間の差がさほどなく、1年を通してそれも少ないのだし、東西に長い日本の地形や風土には全く適していないと思える。
経済協力開発機構(OECD) 加盟国で導入していないのは、日本と韓国とアイスランドの3カ国だけと言われようと、今後もサマータイムなど必要なく、無駄な議論であると筆者は思うのである。

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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