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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

アラン・ドロンの最期と日本との関係

華やかなだけではなかったフランスの大スター pixabay画像

アラン・ドロンの訃報が一斉に流れた日は、第一報のプレスリリースが早朝、流されたこともあり、フランス中のマスコミはその日、一日中、アラン・ドロンの訃報を伝える報道に終始する大騒ぎになりました。正直、日本でも人気のあった彼の存在は、知っていたものの、フランスにおいて、どの程度の存在であったのかは、実感はありませんでしたが、やはり全てのテレビ局がその日の予定を大幅に変更して、特番体制になるほどの大きな存在であったことをあらためて実感させられる思いでした。また、タイミング的にも、パリオリンピックも終わり、パラリンピックもまだ始まっていない、他にさしたる大々的なニュースもこれといってないタイミングで彼の訃報が全面的に扱われるタイミングであったことも、大スターとしての彼の宿命のようなものであったような気もしてしまいます。

アラン・ドロンと日本の関係

アラン・ドロンは、映画などにあまり詳しくない私でさえも知っているほど、一時は日本でも、美の代名詞的な存在で、人気がある俳優さんであることはわかっていましたが、今回の彼の訃報につれて、彼の人生を振り返る報道を見ていると、彼は世界的な大スターであったことは言うまでもありませんが、特に日本での人気が驚異的であったということは、フランスでも有名な話であり、一時は、フランス国内よりも日本での方が人気があるのではないか?とまで言われていたことや、また、彼自身も日本での驚異的な人気を誇りにしていたことがわかりました。

当時のフランスのテレビのインタビュー番組で、「あなたは世界的な大スターですが、とりわけ日本では驚異的な人気があることについてどう思いますか?」との質問に対して、彼自身が自分は日本における生きる神のような存在であることをとても光栄に思っていると語り、その理由について、「日本人には、白人に対するある種の憧憬のようなものがあり、それに、自分の美貌と理想的な男性像、映画の成功が重なった結果であり、人々は私の手に触れるだけで、指にキスするだけで、大きな喜びを感じている」というようなことを語っています。

これだけ聞くと、ちょっと小馬鹿にされているというか、鼻もちならない嫌みな感じがしないでもありませんが、彼はまた、「映画『太陽がいっぱい』の成功によって、その容姿と神秘的で野心的な側面だけでなく、哀しく、孤独で冷笑的でもある暗い側面が敗者を励ますことを好む日本人の観客にとって、非常に魅力的に映った結果でもある」という日本人の国民性も考慮した分析もしています。

余談にはなりますが、以前、彼は日本での人気番組「SMAP×SMAP」にゲスト出演した際に、SMAPのメンバーに対して、君たちは、コメディアンであるのか?アクターであるのか?と質問している場面があったそうで、コメディアン、アクターともにフランス語では、俳優、役者という意味ではあるのですが、それに明確に答えかねていたSMAPのメンバーに対して、コメディアンというものは、与えられた役を演じる人、アクターというものは、与えられた役を生きる人であり、自分はアクターであるというようなことを言っている場面がありました。彼自身のこの言葉を借りるなら、彼の人気はたとえ、映画のイメージによって作られたものであると同時に彼はその役を生きていたということになり、作品ひとつひとつの役柄を重ねて生きていたということにもなります。

彼は日本での人気を映画の興行だけではなく、ビジネスとしても大いに活用し、日本の数多くのCMにも登場し、ついには、自身のブランドを立ち上げ、ファッションアイテムやアクセサリーなどを自分の名前で販売、また、日本の旅行会社の企画に参加し、アラン・ドロンのパリ晩餐会ツアーなるものを行い、有料オプションで彼に花束を送ったり、一緒に記念撮影できるサービスまであり、これには5万人以上の日本人が参加したと言われています。

晩年のアラン・ドロンとその家族のいざこざ

アラン・ドロンが最後に公式に姿を現したのは、2019年のカンヌ国際映画祭のことで、長年の映画界における功績を讃える名誉パルムドール賞を受賞したときのことでした。当時でさえも、かなりおぼつかない様子で彼の最も愛する長女に付き添われてのことでしたが、彼は、その壇上で、時おり、涙を浮かべながら、これが公式に皆さんにお目にかかる最期となるだろうというような、公衆に対するさよならの挨拶であった記憶があります。

彼は、自分の家族に対する特別な想いと、どのように彼自身の死を迎えるかということをかなり真剣に考えていたことがうかがえ、自分が埋葬される礼拝堂のようなものを彼が長年住居としていたドゥシーの自宅敷地内に用意しており、両親のそばに自分と自分の愛犬とともに埋葬してもらうことを望んでいました。幼い頃から、哀しい家庭環境に育った彼は、「そこで、ようやく家族が一緒にいられるようになる・・」と語っていました。彼の奥底に秘められた哀しく暗い一面が人々を魅了していた一因であったことは、皮肉なことです。

彼はこのカンヌ国際映画祭の2ヶ月後に脳卒中を起こし、その後、療養中ということが伝えられていましたが、昨年頃から、家族内のいざこざがマスコミを賑わし始め、まずは、長年の彼と同居していた日本人の女性パートナーを彼の子どもたちが、モラルハラスメント、彼の愛犬に対する虐待で告訴。女性を家から追い出してしまうということが明るみになりました。子供たち曰く、「父を家族、親戚、友人たちから孤立させようと電話や手紙、メッセージ、郵便物などをコントロールし、彼らが会いに来るのを妨げようとしている。彼女の態度は高圧的であり、脅迫的である」という内容で、彼女は憲兵隊の立ち合いのもとに家を追われてしまうという泥沼劇が始まりました。

実際のところは、わかりませんが、本来ならば、これだけ功績を重ねてきた父親に関することは、告訴騒ぎにすることでもなく、家族間で話し合い、何より、アラン・ドロン自身が一喝して、話し合いをすれば済むことではないかと思ったのですが、今から考えるに、この時点ですでに彼はかなり、認知機能に支障をきたしていたのではないか?と思われます。

その女性は、その後、アラン・ドロンの自宅からは退去させられたのですが、騒動はこれではおさまらず、今度は彼の子どもたちの間でいざこざが起こり始めます。アラン・ドロンには正式に認知している子どもが3人いるのですが、彼はかなり早い段階で彼の莫大な遺産の半分は、彼が溺愛している長女に半分、残り4分の一ずつを長男、次男にという遺言を残していました。それは、彼らもすでに了承済みとのことだったのですが、今度は、長男が長女に対し、「スイスで行った認知機能の検査が著しく悪化していたことを妹が隠していた」と告訴。長男はテレビ等の報道に顔を出して、その現状を暴露しまくり始めました。すると、今度は、アラン・ドロンの弁護士側が、名誉棄損で長男を告訴。「長男がマスコミを通じて妹を攻撃し、ことさら自分自身の老いを強調して世間に公表することに耐えられない」、「長女とは異なり、私は長男を心から信頼したことは一度もない」、「私のことも、私の娘のことも放っておいてほしい」と弁護士を通じて発表しています。まさに人生終盤の泥沼劇が展開されており、あれだけ輝かしかった彼の人生の終盤はどう考えても穏やかなものではありませんでした。

ここ一年ほどは、彼の家族間のいざこざを目の当たりにしていたこともあり、彼の訃報を聞いた時には、ようやくそんなことからも解放されたんだな・・という気持ちがありました。彼は彼の希望どおりにドゥシーの自宅に埋葬される行政手続きも滞りなく行われ、また、あまり大仰な葬儀は好まず、ましてや政治的な取り扱いをされることは固く拒否していたとのことで、ごくごく近しい約40名ほどに見守られての葬儀が執り行われたようです。

考えてみれば、最近は、このような場合は、葬儀等も全て済んだ段階で発表するというやり方もあったのかとも思いますが、あの訃報に対するフランス中の騒ぎようを見ていると、そうもいかないほどの大スターであったということなのかもしれません。

往年、彼は、自分の家族について、また自身の死について、フランス人らしく、けっこう、饒舌に語っている映像が残されていますが、その中には、「自分の死後、それを報道する新聞の見出しはどんなものにしてほしいですか?」という問いに対して、彼は、それは決まっているでしょう!と言わんばかりに「サムライは死んだ!」と即答しているものもありました。これは、もちろん彼が主演した映画『サムライ』を想ってのことだと思われますが、この映画の冒頭に登場する「サムライほど孤独の中にいる者はない」というキャプションと彼自身の人生を重ね、また、役柄を生きることがアクターであると語っていたとおり、彼自身の人生を表しているように思わずにいられないところもあり、同時に、その「サムライ」という日本語、日本に対する彼自身の想いが表れているようにも感じるのです。

 

Profile

著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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