パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
言うべきことを言わざるは恥 フランス年金改革反対デモの層の厚さ
毎週のように、特に土曜日になると、どこかで何らかのデモをやっている気がするフランスで、今回の年金改革反対のデモは、12年ぶりの労働組合統一の大規模なデモになると言われていましたが、実際に年明け1月半ばに入ってから始まった今回のデモは、すでに数回にもわたって続いており、フランス本土でほぼ毎回100万人以上を動員する大規模なものとなっています。
今回の年金改革の焦点は、なんといっても定年の年齢が引き上げられることにあり、現在は62歳定年であるところを当初の政府の改正案では、65歳までに延長されたもので、これにフランス国民は大激怒。政府は早々に64歳に引き下げる歩み寄りを見せたのですが、この64歳までという2年間の延長を国民は、「死ぬまで働かせるつもりか?」、「老後の生活を奪うのか?」と国民の怒りは一向におさまりそうもありません。
デモとストライキはセットのようなものですが、このストライキの方は、一番迷惑な公共交通機関などではありますが、これには、パンデミックのために浸透したリモートワークの普及により、以前ほどの混乱はありませんが、それでもこの騒動が長引き、冬休みのバカンスに出かける人々が足止めを食ってしまったり、先週もパリ・オルリー空港ではフライトの50%がキャンセルされた・・などという話を聞くと、「出かける予定にしてなくてよかった・・」とホッとしつつも、これでは、一体、いつだったら、キャンセルされるリスクがないのか?とウンザリしてしまいます。
しかし、今回ばかりは、全国民に共通する問題ゆえ、怒るに怒れないところもあるのですが、通常でもフランス人の日常のテンションからしたら、このような足止めなどにもっと怒ってもよさそうなものに、意外とあっさり受け入れて飲み込んでいるのも解せない気もするのです。
家族ぐるみでデモの教育をするフランスの文化
私がフランスに来たばかりの頃に、夫の友人宅に招かれた時、料理上手な奥様が腕を振るって大歓待してくださったのですが、その時に、「フランスに来て最も印象的なことは?」と聞かれて、「デモとストライキ」と答えたら、とても満足そうだったことがとても意外でした。
私としては、当時、長引くSNCF(フランス国鉄)のストライキのために、通勤には、通常の倍近い時間がかかるだけでも、もうヘロヘロでウンザリしており、「文句があるからといってストライキで解決しようとするのは、駄々をこねている子供のようで、これがまかりとおるなんて!!」と多少、皮肉を込めて答えたのですが、それが満足そうに受け取られたことに、逆に驚かされたのを覚えています。
フランス人は、このデモやストライキをする権利というものをとても尊重していて、彼らの生活にとっては、大前提に存在するものであり、彼らの誇りでもあるのです。
今回の年金改革は、現役世代だけでなく、次世代の若者や子供にも関わることでもあり、高校生がこの抗議のために学校をブロックしたなどということも起こっていますし、デモ隊の中には、子供連れの家族、おばあちゃんが子供夫婦や孫たちまで引き連れて参加し、「言うべきことを言わないのは恥、抗議するべきときには、しっかりそれを表現しなければならない。デモというものを子供たちにも受け継いでいかなければならない!」などと家族ぐるみで来ていたりして、なるほど、こうしてフランスのデモは脈々と受け継がれていっているのだと、フランスの家庭の教育には、このような項目も入っているのだと妙な感心をしたりもしました。
この連れられている小学生くらいの子供たちも、おそらく親たちが話していることの受け売りであろうと思いつつも、マイクを向けられれば、いっぱしのことを力強く語ったりするのもフランスならではだなと思うのです。
こうして親子、孫まで3世代にわたってデモに参加していれば、動員数も多くなるわけで、中には、天気もいいしなどと、ピクニック気分で来ている人などもいて、仮装したり、歌を歌ったり、楽しみながら参加している人もいます。
しかし、中にはこのデモに乗じて破壊行動を行うブラックブロックなる集団がいたり、暴徒化することもあり、催涙ガスなどで煙が立ち上る程度は珍しくないことで、場所によっては、車やゴミ箱などが燃やされたり大変な事態に陥ることも少なくはなく、このデモ隊を警護する警察官や憲兵隊の武装も初めて見たときには、そのあまりの重装備とイカつさには何事か?とギョッとさせられたほどでした。
今回のデモでは、よほどこの警護が厳重なのか?そこまで暴力的な運びにはなっていないものの、これが続いて、以前の黄色いベスト運動の時のようなことになれば、もうその日はまともな生活が送れないほどに、デモのルートにある商店などは閉店を余儀なくされたりもします。
日本にも政府に抗議する手段があれば・・
フランス政府は毎回のデモに相当数の警察官や憲兵隊を動員しつつ、恐らく相当の費用をかけつつもデモを行う権利を尊重することに誇りを持っているのですが、この国民の声を非常に注意深く見ており、この国民の声に答えるために、テレビのニュース番組や討論番組に積極的に登場したりしているのが常ではありますが、今回の年金問題に対しては、今のところ、そのような討論番組、いわゆるディベート番組は1度しか目にしておらず、口の達者な政府報道官をもってしても、どうにもあまり優勢とは見えずに、その後、この手の番組への出演は控えているようにも見えます。そもそも赤字を補填するために国民にもっと長い期間を働かなければならないことを納得させるのは至難の業で、日本のように退職後も居場所を求めて再就職(現在は経済的な問題も含んでいるとは思いますが・・)しようとする人もいる国民とは違って、老後の生活をそれなりに楽しもうとしている国民にとって、定年後、まだ元気なうちに十分楽しめる時間を奪われることは大問題でもあるのです。
フランスに来た当初は、こうしたデモやストライキを苦々しく思っていた私ではありますが、最近の日本の状況を見ていると、かなり支持率が低い現在の政府にもかかわらず、とんでもないことがどんどん決議されていってしまう気がしていて、もうこれほど人気がないことにも慣れてしまった政府には、怖いものなど何もなく、決められたことにはおとなしく従う国民は、言われるがままに従わざるを得ないような状況に、むしろ、日本にもフランスのデモやストライキなど、政府に抗議する手段はないものか?と思わずにはいられないのです。
フランス政府は、黙ってはいない国民の声に対して、非常に注意を払って発言していると思いますが、日本政府、首相などの説明などフランスだったら、絶対通用しないものばかり。以前、私はフランスの職場でフランス人の同僚に「日本人は黙って我慢するからダメなんだ!」と言われて閉口したことがあり、私自身、日本人的要素がまだまだ強いことも否めないのですが、最近では、フランスのこのデモなどが起こる状態の方が社会としては健全であるような気もしているのです。
こうしたデモが予定されている場合、在仏日本大使館からは必ず、予定されているデモのルートとともに「危険な事態も予想されますので、できる限り当日は近寄らないようにしましょう」などというメールを送ってくださるのですが、最もなことではありながら、日本ってこうなんだな・・と思ったりもします。危険だからデモには近寄るなという日本と教育のためにも孫まで連れてデモに参加する人がいるフランス。
孫を連れてきていたおばあさんが言っていた「言うべきことを言わざるはフランス人の恥」という言葉が、私には、以前よりもずっと重く響くようになっているのです。
著者プロフィール
- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR