England Swings!
戦禍のウクライナが優勝、ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト2022
ここで、われらが英国代表の話も少し。多くのビッグ・アーティストを排出している国なのに、英国はユーロヴィジョンでは圧倒的に弱い。近隣国同士で投票しあう「友だち票」も少なくて、ほとんど嫌われ者扱い。EU離脱後の去年の大会では、最後まで1ポイントも入らない(もちろん最下位)という不名誉な記録も作ったくらいだ。
ところが今年は前評判の段階から話が違っていた。TikTokのフォロワー1200万人の人気者、サム・ライダーの出場で期待が高まったのだ。彼が歌った「スペースマン」はどこかエルトン・ジョンを思わせ、一度聴いたらすぐに歌えるキャッチーなサビや彼の高音ファルセットが印象に深く残る。何よりサムはやたらに人がよさそうで、つい応援したくなってしまう(当日の全演奏はこちら)。
ウクライナには及ばず2位に終わったものの、英国にとってはこれはすばらしい成績で、翌日はトップニュースで報道されて大騒ぎになったた。今やメディアに引っ張りだこの彼は、目が回るよと言いながらにこにこしている。6月の女王の在位70周年記念のコンサートにも出演が決まって、これからますます活躍しそうだ。
Sam Ryder's career is now set for take-off after that heavenly rendition of Space Man! #Eurovision #ESC2022 pic.twitter.com/n9oUzWadh9
-- Eurovision Song Contest (@Eurovision) May 14, 2022
ユーロヴィジョンでは、優勝した国が翌年の開催国になるのがお決まりだ。来年5月までに、ウクライナは大きなイベントを開くほど復興できるのだろうか。そうなってほしいと願わずにいられないし、ゼレンスキー大統領も開催に意欲を見せているけれど、そう簡単なことではなさそうだ。ウクライナが難しいなら2位の英国や3位のスペインに、という話もあるし、今年の開催地トリノなど、すでに代わりに開催してもいいと申し出た国もあるようだ。わたしの周りでは「戦争さえ終わっていたらウクライナで開けるように他の国が支援するはず」という声も聞く。今大会で同情票が集まったのと同じ気持ちなのだろう。ウクライナでの開催が実現してもしなくても、ヨーロッパ全体が戦争に苦しむこの国を熱くサポートしていくことは間違いないようだ。
ユーロヴィジョンは今年も楽しかった。どうもありがとう。来年は平和が訪れていますように。
今年もユーロヴィジョンの様子は、番組のすべてをYouTubeで観ることができる。当日の盛り上がりをぜひ味わってみてください(→決勝の動画はこちら)。
今日のおまけ
ユーロヴィジョンでは、出場者の他にゲストのステージも楽しむことができる。今年は特に総合司会のひとり、ミーカがとてもよくて感激してしまった。司会では大げさなリアクションがちょっと気になっていたけれど、たくさんのダンサーを引き連れて歌う彼は輝いていた。明るくハッピーな選曲もお祭りらしいし、観客とのコミュニケーションが抜群に上手ですっかり引き込まれた。ハートが描かれた旗を観客と一緒に振ったり、指や手でハート形を作ったりしながら「少しの愛を(a little bit of love)」と歌いかける姿に励まされ、コロナ禍に続く悲惨な戦争の影響で、自覚しているよりずっと気持ちが沈んでいたことに気付かされた。今年のユーロヴィジョンにふさわしいエンターテイメントだったと思う(当日の彼のステージはこちらからどうぞ)。ちなみにわたしはその後ミーカを聴きまくっています!
It's SO good to see @mikasounds up on the #Eurovision stage! pic.twitter.com/RyNDscxGlh
-- BBC Eurovision (@bbceurovision) May 14, 2022
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile