England Swings!
春の風物詩、テムズ川のザ・ボートレース
2022年春、ロンドンにザ・ボートレースが戻ってきた。「ザ」がつくからには特別なイベントで、毎年、オックスフォード大学とケンブリッジ大学が一対一で競うボートレースだ。1845年に始まって今年で167回目を迎えた伝統ある行事で、女子のレースも1927年から加わっている。2020年はパンデミックの影響で中止になり、昨年は郊外のイーリーで見物客をほとんど入れずに行ったので、例年のコースでの開催は3年ぶりのことだった。
テムズ川というと、時計塔のビッグベンやタワーブリッジあたりを流れる都会の川という印象が強いかもしれないけれど、このレースが行われるのはその少し上流、街の中心部から30分ほど行った南西ロンドンを流れるテムズ川だ。このあたりは都心と郊外をつなぐ緑豊かな住宅地で、ザ・ボートレースのコースも、こんもりした半円のようなカーブを描いている。スタート地点のパットニー橋から上流に向かって6.8キロ進み、チズウィック橋でゴールするコースだ。
ボート競技は心拍数が180を超えることもある激しいスポーツだ。またザ・ボートレースで採用されている「エイト」という漕ぎ手8人の競技は、息をぴったり合わせて漕ぐことが必須になるので、究極のチームスポーツとも言われている。「エイト」では選手がオール(櫂)を両手で1本ずつ持って漕ぎ、最後尾に手ぶらで乗り込む舵手の舵取りでボートが進む。おもしろいことに、女子チームの舵手はどちらも男性だった。ボートを無駄に重くしないため、小柄な男性が選ばれるらしい。
4月3日の日曜、レース当日は朝から気持ちよく晴れていたので、散歩がてら、わが家からそう遠くない出発点のパットニー橋まで様子を見に行ってみることにした。例年川沿いに25万人以上の見物客が出る大きなレースなので、午後のスタートに向けてすでに盛り上がっているかと思いきや、朝10時では早過ぎたのか、川自体は静かなものだった。それでも、橋にはスポンサー名が入ったのぼりや横断幕が掲げられ、川岸にもテレビ中継用のカメラや見物客のためのごみ袋も設置されて、静かな期待が感じられた。
川の南側は車両通行止めになって、警察官もかなり待機していた。空にはヘリコプターが飛び、テレビ中継の準備が進んでいた。大きなクレーンのついた中継カメラは、間近で見るとすごい迫力だった。
橋から川岸に向かう人はますます増えて、ボートハウスのあたりでは、見物客や関係者や犬を連れたご近所さんらしい人が集まって和やかな雰囲気になっていた。太陽のおかげで春らしい暖かさになっていたので、川沿いのパブやボートハウスが出す屋台で午前中からビールを飲む人たちも気持ちよさそう。お祭り気分はすっかりでき上がっていた。
ザ・ボートレースでは、遠くからでもチームが見分けやすいように、それれぞれの大学はユニフォームとオール(櫂)に同じ色を使うことになっている。どちらもブルーで、少し緑がかった水色はケンブリッジブルー(あるいはライトブルー)、紺色の方はオックスフォードブルー(あるいはダークブルー)と呼ばれる。オックスフォードの方はわりと普通の紺色なので、人混みではどうしてもケンブリッジの方が目につき、この日もこの色の上着やスカーフを身につけた人が目立っていた。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile