England Swings!
マーカス・ラッシュフォード選手の取り組みで注目される子どもの貧困問題
SNS、特にツイッターでラッシュフォード選手の発言を追っていると、子どもたちのことを真剣に考えているのがよく伝わってくる。無料給食がなくなってラッシュフォードはがっかりするだろうね、という国会議員のツイートには「ぼくの話じゃないんだ。助けてと叫び声をあげている子どもたちに説明してあげて」と答え、「子どもたちの声が届かないから代わりにぼくが話している」と語る。困っていると言うのが恥ずかしくて、助けを求められない子どもや家庭も多いそうだ。シングルマザーのもとで苦労した彼の「家に食べものがないのは絶対に子どものせいじゃない」という言葉には迫力を感じるが、それでも「お母さんのためならなんでもする」と言うほどお母さんが好き、というのがほほえましい。
そう、彼はなんだかいい人そうなのだ。ツイッターで子どもたちと楽しそうにやりとりしているのを見ると、もともと子ども好きなのかなあと感じる。試合で負けた時には、「逃げたらファンに申し訳ないのでツイートします。うまくいかなくてごめんなさい、次はもっとうまくプレーします」と潔い態度だし、給食継続に反対した議員への中傷ツイートが出回った時には、「そんなことをしても意味はない、自分をおとしめないで。大切なのは協力して子どもたちを支えることだというのを忘れないで」とフォロワーを優しくいましめる。自分だけでなく、議員も仲間も一緒にやっていこうと人を励ます。
なんてフェアですがすがしいスポーツマンなんだろう。苦労したのにひねくれず、成功してもおごらず、人気者という立場さえ利用して前に向かって歩いている。どこかあどけなさも残るさわやかな笑顔もキュートだし、素直ないい子に育って、お母さんは本当に嬉しいだろう。慈善活動をしているスポーツ選手やセレブは多いけれど、これはやっぱり彼のファンになっちゃうでしょ。
Time we worked together. pic.twitter.com/xFPsgBiPQC
-- Marcus Rashford MBE (@MarcusRashford) October 21, 2020
今、ラッシュフォード選手は、給食の継続や食事券の値上げなどを求める署名運動をしている。10万人の署名で議会の審議が行われるところ、彼の呼びかけに応えてすでに100万人が署名をした。自主的に食事を配る企業や個人の活動が世間で高く評価されているので、政府には社会的プレッシャーもかかっているそうだ。ラッシュフォード選手の活動は、これから政府や社会にどんな影響を与えていくのだろう。
署名運動が100万人を突破した日、ラッシュフォード選手は本業のサッカーの試合でも16分の間に3得点をあげて大活躍だった(これをハットトリックって言うんですね、やっと意味がわかった!)。マスコミもSNSも彼を連日もてはやしているけれど、母親世代の心配性ファンとしては、この頼もしい若者が活躍しすぎて生き急いでいないか、少し気になっている。あまり一気に持ち上げられてマスコミが飽きたり、叩き始めたりするのは見たくない。もともと長期的な視野でこつこつ活動していた彼だから、これからも着実に前に歩いていってほしい。ラッシュフォード選手、いやマーカスくんの将来がとても楽しみなのだ。
ご参考までに、ラッシュフォード選手のツイッターのアカウントは@MarcusRashford、インスタグラムのアカウントは@marcusrashford、
無料給食や子どもに無料で食事を提供する活動のハッシュタグは#EndChildFoodPoverty、#NoChildGoesHungry、#FreeSchoolMealsなど。
おまけ:英国での子どもの貧困問題については、英国ブライトン在住のブレイディみかこさんの『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社、2019年)でも語られている。息子さんの中学生活という実体験に基づいて書かれたこの名著には、子どものいないわたしにとって目からうろこが落ちるエピソードが詰まっていた。潔いみかこ節もかっこいい。今回の話題にご興味を持った方にはおすすめです。
著者プロフィール
- ラッシャー貴子
ロンドン在住15年目の英語翻訳者、英国旅行ライター。共訳書『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』、訳書『Why on Earth アイスランド縦断記』、翻訳協力『アメリカの大学生が学んでいる伝え方の教科書』、『英語はもっとイディオムで話そう』など。違う文化や人の暮らしに興味あり。世界中から人が集まるコスモポリタンなロンドンの風景や出会った人たち、英国らしさ、日本人として考えることなどを綴ります。
ブログ:ロンドン 2人暮らし
Twitter:@lonlonsmile