Fair Dinkum フェアディンカム・オーストラリア
魂を揺さぶる「消えゆく歌」 絶滅危惧の鳥たちの声を集めたアルバムが初登場5位に!
12月に入ると、街中にはお馴染みのクリスマス・ソングが流れ、否が応でも「ああ、クリスマスが近いのだな」と思いださせてくれる。
例年、この時期に、マライア・キャリーやマイケル・ブーブレ、日本だと山下達郎あたりの有名なクリスマス・ソングを収録したアルバムが、再びトップ・チャート入りするというのも、万国共通の現象ではないだろうか。ご多分に漏れず、オーストラリアも同じだ。
そんな、大御所アーティストたちの名前が、チャート上位に並ぶのが、なかば恒例となった年末の音楽界に、思わぬ「新人(新参者)」が現れ、オーストラリア国内はもちろん、世界がざわついている。
しかも、その「新人」はプロの歌手ではない。いや、そもそも人間ではない。
ARIA(オーストラリアレコード産業協会)の週間アルバム・ランキング(12月13日の週)で、初登場5位を記録したのは、「Songs of Disappearance(消えゆく歌)」。アーティスト名は、「Australian Bird Calls(オーストラリアの鳥の声)」だ。(参照)
そう、つまりこれは、オーストラリアの鳥たちの声だけが収録されたアルバムで、その歌声の持ち主である鳥たちはDisappearance(消えゆく)状態=絶滅危惧にあるという。このアルバムには、このままいくと、この鳥たちの声を二度と聞けなくなってしまうかもしれない!という、強烈なメッセージが込められている。
リリースからわずか10日の快挙
アルバムの最初に収録されている様々な鳥の声のミックスが試聴できる。目を閉じて聴けば、オーストラリアの森の中を散策しているような気分になれることウケあいだ。(Various Artists - Topic)
「Songs of Disappearance(消えゆく歌)」は、12月3日リリースされたばかり。ということは、わずか10日で、いきなり5位に顔を出したことになる。
アルバムに収録されているのは、全部で53種の鳥たちの歌声。楽器などによるインストゥルメンタルも一切入っておらず、本当に鳥の声だけで構成されているのが画期的だ。
このプロジェクトは、自然をこよなく愛する、音楽に精通した男女2人が立ち上げた自然保護団体のアイデアを基に、バードライフ・オーストラリア(豪野鳥協会)をはじめとする、多くの人々が協力しあって実現。創設者2人がそれぞれ、チェリスト、ヴァイオリニストとして国内外で活躍している音楽家でもあるこの団体は、自然との情緒的な繋がりを強めることを目的に、自然保護の物語を伝えるマルチメディアを制作して、世に送り出している。
今回、選出された鳥たちは、バードライフ・オーストラリアと共同で発表したレポート、「政策支援の欠如と急激な気候変動により、最も絶滅の危機に瀕している鳥類約50種」に基づいているという。
また、このアルバムの売り上げによる収益は、バードライフ・オーストラリアの野鳥保護護活動に充てられる予定だ。(デジタル版は、海外からも購入可能。最後にリンクを紹介しています)
自然の音に耳を傾け、地球の声を訊く
人工的な音から離れ、自然の音に耳を傾けると、驚くほど様々な、たくさんの音が聞こえてくる。雨の音、風の音、風で木の葉が揺れる音、木々が擦れる音、鳥のさえずり、虫の声・・・
自然の音を聞くと、心が落ち着き、癒されると感じる人も多いと思うが、都会にいると、人工的な音を完全に排除するのは、なかなか難しい。だが、オーストラリアのアウトバックと呼ばれる僻地や国立公園の森の中では、割と手軽にそうした環境に身を置くことができる。
初めてオーストラリアへ来た時、それがすぐ身近に実際にあることに感動し、その感動を忘れまいと、オーストラリア北部地域で録音された自然の音を集めたCDをむさぼるように買って帰ったほどだ。
オーストラリアでは、今回の「消えゆく歌」アルバムだけでなく、自然の音に着目し、しっかりとモニタリングすることで、環境保護に生かそうとするプロジェクトがいくつもある。
2019年には、国内90ヶ所に『野生の耳』と呼ばれる集音装置が100以上仕掛けられ、24時間365日休まずに自然の音を拾っているという。自然の音をデータとして収集し、科学的に分析することで、地球環境保全に役立てようというわけだ。
こうした「音」に対する注目度が大きくなるなか、昨年、オーストラリア政府観光局は、「8Dオーディオ」で録音した迫力ある自然の音に主眼をおいた動画シリーズ「8Dエスケープ」を公開。『耳で旅する』という臨場感あふれる特殊体験を通して、オーストラリアの魅力を伝える面白い試みを行った。(参照)
また、豪ABC放送は、ポッドキャストに「ネイチャー・トラック」という、豪国内各地の自然の音を流すチャンネルを開設し、エデュケーショナルなリラクゼーション番組として話題となった。
このたび、「消えゆく歌」が、週間アルバム・ランキング 初登場5位の快挙を成し遂げたことで、世界的にも脚光を浴び、地球上の「消えゆくものたち」への関心を惹きつけたと、称賛の声が寄せられている。(海外報道の例:BBC, CNN, VRT)
こうした動きが、大きなうねりとなって、保護活動がより前進することへの期待が高まっているのは、本当に喜ばしい限りだ。しかし、嬉しい気持ちの一方で、切ない現実を突きつけられ、なんともいえない焦燥感に駆られてしまうのも事実...
「消えゆく歌」は、自然の音=地球の声に耳を傾けることの大切さを再認識させてくれた。将来、「消えゆく歌」が本当に消えてしまうことがないようにと、切に願い、これからも、自分ができることを(例え少しずつでも)実践していきたい。〈了〉
▼Songs of Disappearanc(消えゆく歌)公式サイト
※アルバムは、こちらの公式ページから購入可能。CD版は豪国内のみ。デジタル版は、海外からも購入でき、特定の鳥のクリップだけの購入も可能です。アルバム売り上げの収益は、バードライフ・オーストラリアの野鳥保護護活動に充てられます。
著者プロフィール
- 平野美紀
6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。
Twitter:@mikihirano
個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/
メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/