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平野美紀|オーストラリア

悪夢の36時間から復興へ。ワイン産地アデレード・ヒルズ

火の手がメインの建物の真裏まで迫り、畑も被災したが、苦難に屈することなく、前向きに再興に取り組んでいる家族経営のワイナリー「ゴールディング・ワインズ」のテイスティング・プレート。(2021年3月 筆者撮影)

南オーストラリア州の州都アデレード近郊で、最も高い山「マウント・ロフティ」の麓に広がる美しい丘陵地帯「アデレード・ヒルズ」。

アデレードから最も近いワイン産地としても知られ、ワイナリーめぐりと同地区にあるオーストラリア最古のドイツ村「ハーンドルフ」と合わせた観光地として、注目のスポットでもある。

しかし、2019-2020年の大規模森林火災で、同地区のブドウ畑全体の約3分の1に当たる1,100ヘクタールが被災した。60以上あるワイナリーの多くが被害を受け、業界の損失は1億豪ドルを超えると言われる。(参照

なかには、すべてを失ったワイナリーもある。ブドウ畑を火が舐めるように通過し、すべてが焼き尽くされた。また、直接の火災は免れても煙害でブドウがだめになってしまったワイナリーも多い。(参照

また、自然豊かなエリアであるため、野生のコアラの生息地としても知られているが、多くのコアラも犠牲になった...(参照

アデレード・ヒルズで消火活動に当たる消防士に、まるで助けを求めるように近寄ってきたコアラ。その姿に世界中の人々が心を打たれた...

悪夢のような森林火災に襲われたアデレード・ヒルズ。

それでも、ワイン生産者たちは、ワイン造りへの情熱の灯を消すことなく、着実に復興の道を歩んでいた。

アデレード・ヒルズ、ワイン造りの歴史

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GOLDING WINES ゴールディング一家が経営する1995年創業のワイナリー「ゴールディング・ワインズ」の木漏れ日が心地よいガーデン・レストラン「Ginkgo」。(2021年3月 筆者撮影)

まずは、ワイン産地としてのアデレード・ヒルズをざっくりとご紹介したいと思う。

アデレード・ヒルズに、初めてブドウの木が植えられたのは1839年。翌1840年から1900年にかけて計225人の生産者が次々とブドウ栽培を開始し、ワイン造りを始めたことから、ワイン産地としての歴史が始まった。オーストラリアでは、最も古いワイン産地の1つでもある。

しかし、1900年代初頭に、ほとんどの生産者が破産。その後の50年間は、牛や羊などの家畜、果物や野菜などの農地へと転用されていた。

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SHAW + SMITH  英国人以外で初のマスター・オブ・ワイン(MW)となったオーストラリア人 、マイケル・ヒル・スミスと従弟のマーティン・ショウが1989年に創業したワイナリー「ショウ+スミス」。(2021年3月 筆者撮影)

その後、1970~80年代にかけて、高い標高と冷涼で多湿という個性的な環境が再び注目され、この地域でのワイン造りのブームが再燃。豪国内有数のワイン産地として頭角を現した。

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COBBS HILL ESTATE 1854年からアデレード・ヒルズに居を構え、駅馬車を引くための馬を飼育していた農場の歴史あるホームステッドとガーデンが美しいワイナリー「コブズ・ヒル・エステート」。(2021年3月 筆者撮影)

現在は、品質にこだわった小規模の家族経営ワイナリーなど、少量生産ながらクオリティの高いワインを生産しているワイナリーが多く、風光明媚で地元生産の食材が豊かなことから、地元の結婚パーティーやランチ・スポットとしても人気だ。

※今回訪問した上の写真のワイナリー3軒は、キャプションのワイナリー名(英字)から、各公式サイトへリンクしています。

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「コブズ・ヒル・エステート」の昔のままのホームステッド(邸宅)の前に広がる美しいガーデン。(2021年3月 筆者撮影)



悪夢の36時間からの再起

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アート・ギャラリーのような「ゴールディング・ワインズ」のセラー・ドア(直売所)。(2021年3月 筆者撮影)

ゴールディング・ワインズは、メインの建物のすぐ裏まで火の手が迫り、重要なブドウ畑が壊滅的なダメージを受けたワイナリーのひとつだ。

火の勢いはすさまじく、家や畑を守るためにオーナー1人だけが残って消防士と共に消火活動に当たったが、その他の家族やスタッフは避難せざるをえなかったといい、わずか36時間で、すべてが一変したという。

敷地内の多くの場所が原型をとどめないほど、焼けてしまった...
何人もの友人や隣人が犠牲になったことを知り、落胆したことだろう。

オーナーは、悪夢のような36時間だったと当時を振り返る。(参照

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左/被災した畑を案内してくれたジャック。右上/敷地内の黒く焼け焦げた木々からは新しい芽が吹き出している。右下/ガーデンのすぐ真横まで火が迫り、焼け焦げた垣根は今もまだ茶色くなったままだ。(2021年3月 筆者撮影)

しかし、最も酷い火災が過ぎ去った後に確認してみると、直売所やワイン収納庫のあるメインの建物、レストランのキッチン、そして、大切に手入れしてきたガーデンも奇跡的に残っていたのだそうだ。

オーナー一家は、ここで落胆して止まってしまうのではなく、家族が全員無事であったことに感謝し、気持ちをポジティブに切り替えようと決意。避難する時に決めていた通り、1週間後には奇跡的に残った部分で営業再開を果たした。

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左/奇跡的に被災を免れたセラー・ドアの建物内には、雰囲気のよい暖炉がある。右上/ガーデン・レストランでランチを楽しむ人々。右下/美しく手入れされたガーデン。ここまでまったく被災しなかったのはまさに奇跡だ。(2021年3月 筆者撮影)

あれから1年と数ヶ月が経ち、訪れてみたゴールディング・ワインズには、美しいガーデンで自慢のワインとおいしい料理を楽しむ人々の姿があった。

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右/今年、リリースされたポートレート・シリーズの新作シャルドネ「Rosie May Chardonnay」。左/シャルドネの果実。(2021年3月 筆者撮影)

被災したブドウ畑へ案内してもらった。焼けて茶色くなった部分が痛々しい。畑が元通りになるのは、まだまだ時間がかかるだろう。それでも、焼け残ったブドウの木は今年も実をつけ、畑の合間に残る黒焦げのユーカリからは、新しい芽が吹き出している。

ランチをとるためにガーデン・レストランへ戻ると、柔らかな木漏れ日に包まれていた。

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木漏れ日のなかでワインのテイスティングやランチが楽しめるガーデン・レストラン「Ginkgo」は、地元の結婚パーティーにも人気。(2021年3月 筆者撮影)

家族経営のフレンドリーなワイナリーには、苦境を乗り越える強さと共に、支え合う人々の温もりと穏やかな時間が、まるでグラスにゆっくりと注がれるワインのように流れていた。

【関連リンク】
アデレード・ヒルズ ワイン産地公式サイト(英語)
ゴールディング・ワインズ公式サイト(英語)

Special thanks to:Tourism Australia, South Australian Tourism Commission, Door To Door Chauffeurs

 

Profile

著者プロフィール
平野美紀

6年半暮らしたロンドンからシドニーへ移住。在英時代より雑誌への執筆を開始し、渡豪後は旅行を中心にジャーナリスト/ライターとして各種メディアへの執筆及びラジオやテレビへレポート出演する傍ら、情報サイト「オーストラリア NOW!」 の運営や取材撮影メディアコーディネーターもこなす。豪野生動物関連資格保有。在豪23年目。

Twitter:@mikihirano

個人ブログ On Time:http://tabimag.com/blog/

メディアコーディネーター・ブログ:https://waveplanning.net/category/blog/

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