コラム

ピート・ブティジェッジ大統領への道

2021年12月02日(木)16時30分

カマラ・ハリス副大統領の人気が急落し、現在、ピート・ブティジェッジ運輸長官が民主党内で株を上げている  REUTERS/Leah Millis

<ブティジェッジ運輸長官が民主党大統領予備選挙で最有力候補者の一人として再浮上することはほぼ確定的なことだ>

バイデン大統領の支持率が急速に低下し、中間選挙における苦境が現実化しつつある。そのため、米国民主党がバイデン大統領に代わる次世代のスター候補を探していることは議論の余地はないだろう。

本来であれば、バイデン大統領の後継者の役割はカマラ・ハリス副大統領が担うべきだ。しかし、彼女の大衆的な人気は急速に低下している。彼女の人気低下の理由は政権発足早々に押し付けられた移民問題担当というポジションにある。

現在の民主党は不法移民に対して極めて甘い態度を取る左派と相対的に寛容度が低い中道派の主張が鬩ぎあい、カマラ・ハリス副大統領はどのような発言をしても批判のサンドバックとなる構造がある。結果として、彼女は失言を繰り返し、大統領候補者として指導力不足と見られようになっており、バイデン大統領の後継者レースから脱落しつつある。

巨額インフラ法案を所管する立場にあるブティジェッジ運輸長官

一方、現在、民主党内で株を上げているのは、ピート・ブティジェッジ運輸長官だ。ブティジェッジ運輸長官は現在審議されている巨額のインフラ法案を所管する立場にある。運輸長官のポストは米国の社会インフラ整備を所掌するポジションであり、絶大な利権を握る立場にある。ただし、通常の場合、運輸長官は注目されることはほとんどなく地味な仕事である。

しかし、バイデン政権が推し進めるインフラ投資法案は、道路などの社会インフラだけでなく、ブティジェッジ運輸長官を大統領のポストに押し上げる確かなレールも敷いているようだ。インフラ投資予算の天文学的な数字を背景とし、民主党の連邦議員、州知事、州議会議員の誰もが彼の差配に期待して良好な関係を築くために努力する。これは当然のことだ。特に民主党は共和党が禁じたイヤーマーク(選挙区に対する利権誘導)を解禁する動きを見せており、ブティジェッジ運輸長官と良好な関係を持つことは、政治屋にとっては選挙区での当落に直結する重要な要素だ。

ブティジェッジ運輸長官は、2020年の民主党大統領候補者予備選挙で、惜しくも敗北した。インフラ投資法案は敗北時に露呈した彼の政治家としての欠陥を補うことにもなるだろう。彼が民主党の予備選挙で敗北した原因は、サウスカロライナ州でアフリカ系有権者の得票を全く得られなかったことにある。アフリカ系有権者は敬虔なキリスト教徒も多く、彼のLGBTという性的指向は受け入れられにくいものだった。また、サウスベント市長としてアフリカ系住民が居住する地域に対して強引に開発計画を進めた過去は、彼の下からアフリカ系の有権者票を遠ざけるのに充分であった。

今回の巨額のインフラ投資予算の中にはアフリカ系住民を事実上の対象として多数の予算が含まれている。それらのバラマキ政策はブティジェッジ運輸長官にとっては、アフリカ系有権者との関係を改善するために大いに役立つことになるだろう。したがって、唯一といって良い弱点を克服したブティジェッジ運輸長官が民主党大統領予備選挙で最有力候補者の一人として再浮上することはほぼ確定的なことだ。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

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