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オピオイド依存症の深刻な社会問題を引き起こした、サックラー一族の壮大な物語
パーデューは兄弟が購入したときには小さな製薬会社だった。アーサーはある事情でオーナーから外れることになり、それゆえアーサーの子孫たちは、「我々はオキシコンチン(とオピオイド禍)には無関係のサックラーだ」と主張している。しかし、アーサーはValium依存症を多く生み出したきっかけを作った人物であり、パーデューがオキシコンチンを売り込むマニュアルの原点を作った人物でもある。だから無実、潔白のように振る舞うべきではないというのが作者の立場のようだ。
アメリカのオピオイド問題を作り出した首謀者としてパーデューが話題になり始めた時のCEOは三兄弟の末っ子レイモンドの息子リチャードである。だが、イギリスに移住したモーティマーとその子供や孫を含めて彼らの家族全体がオキシコンチンの販売で利益を得たビリオネアである。彼らは「オキシコドン市場でパーデューの製品が占める割合は少ない。ジェネリックを売っている他の製薬会社のほうが多い」といった言い訳をしているが、数の上では少なそうでも1錠に含まれるオキシコドンの量ではダントツである。また、サックラー・ファミリーはオキシコンチンのジェネリックを作る製薬会社も所有しており、この市場のパイオニアであり主要プレーヤーであることは間違いない。
美術館は関係を解消
依存症が問題になってきた頃にパーデューはオキシコンチンの製造法を変え、粉砕してコカインのように吸入できないようにした。だがこれは依存症対策というよりも、他社によるジェネリックの発売を遅らせる手段であったようだ。製造法の変化はある意味効果的で、粉砕して吸えなくなった依存症の者はヘロインや合成オピオイドのフェンタニルを使うようになった。ヘロインやフェンタニルのほうが安いということもあり、これらの依存症が急増し、オーバードーズで死ぬ者も増えた。
一方で、イギリスに渡って英国籍になったモーティマーは、テート・ギャラリー、ロイヤル・カレッジ・オブ・アート、ルーブルなどに多額の寄付をし、1995年にエリザベス女王から「Honorary Knight Commander of the Order of the British Empire (KBE) 」という上位勲章を得てサーの称号を得た。だが、彼の輝かしい慈善活動は、多くの人々が人生や命を犠牲にしたオピオイド依存症でまかなわれていたのだ。
それ以外の家族もアートでの寄付で知られていたが、パーデューではなくサックラーの家族らが裁判で訴えられるようになり、アーティストで社会活動家のナン・ゴールディンの活動の効果もあって美術館や大学はサックラー・ファミリーとの関係を解消し、建物やコレクションからサックラーの名前を取り去るようになった。
ひとつの家族の欲はこれだけの影響を生み出したのだ。まるで壮大な劇を見ているような読み応えがあるノンフィクションだった。
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